大学時代18 2014-02-26

 この頃、O君もそうですが、R3君とも家が近所になったってことで仲良くなりました。


 R3君に勉強の相談を受けることもあったんです。


 1、2年生と違うクラスだったので、R3君がどんな生徒だったのか深くは知りませんが軽音部の先輩たちとつるんで遊んでるイメージしか彼にはなかったです。



 それが急に3年生になったら、凄い努力家になってました。


 英語を必死で勉強するR3君に私は、俺も最初は書いて地道に覚えたんだよと言いました。


 必死にデザイン画を描く彼に、光と陰の割合が7対3になるように描かれてる絵が美しいんだってだから、その白に斜線を引いてくだけでも色彩感覚って上がるんじゃないかな?


 とかなんとか、美術部の先生の言葉の受け売りに自分の言葉を足したりして彼を励ましました。



 するとどうでしょう。その年のオンワードのコンテストの一次審査を彼は通ったのです。


 当時、彼にそんな実力があったなんて私は思ってませんでした。でも仲間内として喜んだんです。


 彼の周りに居る人たちみんながそうでした。とにかく、本戦で入賞できないかなぁとみんなでR3君に期待したんです。



 ですが、R3君のデザインは無視され、担当の先生たちに色々と指図され、本来R3君が作りたかった作品にはならなかったみたいです。


 あげくの果てにこれじゃ駄目だとオンワードの方から中間審査がなされて、オンワードまで彼の作品を取りに行くはめになりました。


 私はR3君に手伝ってと言われて、オンワードの会社まで引き取りを手伝いに行きました。


 案の定R3君は作り直しを命ぜられ、日数も少ないなか焦っていたようです。


 私はR3君の代わりに、R3君の作品に手を加えすぎた先生らを諌(いさ)めました。


 笑って躱(かわ)されたけど、R3君の身を思ったらあんまりな仕打ちでした。



 まぁ、そんなこんなあったんですが本番の日、私は早く会場入りして


 審査員になるヴェロニク・ブランキーノにevianを差し入れしたりしました。


 こいつが俺の友達なんだ。ってR3君のプログラムを差して言いました。


 ヴェロニクは英語でなんか言ってました。すごく好意的だったのはわかりました。



 こんなの狡いです。しかし、私は本番中も暗い会場の中、生徒の作品ではなくヴェロニクだけをずっと凝視してました。


 ヴェロニクの採点に迷いはなく、素早い判断力の持ち主でした。


 ヴェロニクもこちらに気づいて終始笑顔で接してくれました。


 でも、私はR3君の点数を上げて、他の候補者の点数を下げて欲しかったんです。


 そう通じたかどうかはわかりませんが、たくさんアイコンタクトだけでやりとりしたんです。



 最後にヴェロニクは俯いてしまいました。あの子のせいで公平にジャッジできなかったと悔やんだんだと思います。宇津木えりさんに気づかれてこちらを覗かれました。


 ヴェロニクを隠すように振る舞って、私も大変なことしてしまったなと気づいた時にはもう手遅れでした。



 結局、R3君は入選しませんでした。けど、ファッションショーの最後のパーティーでは一番にヴェロニクのところに駆け寄って、話をしたそうです。


 やはり、一番最初に聞かれたことは英語ができるかどうかでした。


 それと、自分の生活を大事にしてと言ってもらえたそうです。


 他にもR3君はそこでアントニオ・ベラルディから名刺をもらえたそうです。


 出場者たちとも仲良くなって、R3君はどんどん弾みをつけて行きます。



 私はこの時思ったんです。私の人生はこれから先どうなってもいいから


 R3君が成功するといいな、と。


 神様に願い事したことはありませんでしたが、神様にお願いしました。



 どうやら神様は願いを受け入れてくれたように、R3君はこの後(あと)どんどん躍進します。



 最初はサッカーをやっていたから、サッカーのネットで服を作る。という突飛なアイディアが目を惹いてファイナルホームの津村康祐さんの枠でオンワードが決まっただけでしたが、その後R3君は努力します。センスとか才能がある奴には見えませんでした。


 けど私もあっという間にR3君と友達になったようにR3君には友達が多かったんです。それと行動力がありました。


 それから、強運の持ち主だったんだと私は思っています。



 ファッションの名門のアントワープ王立美術アカデミーに生徒のアシスタントとして一年ベルギーに留学した後(あと)、絶対にイタリアで働きたいという夢を見つけて帰って来ました。



 最初、R3君は「アントニオに名刺をもらったって、どうしようもない。」って言ってたんですが「そんなことないよ、凄いよR3君。」と励まして、自分の書いた手紙をNOVAの先生に翻訳してもらって出したと言ってました。


 次の年もオンワードに名を連ね、大学を卒業後はアントニオの下でアシスタントを務めます。


 その後(ご)海外のコンテストにも応募し入賞し、現在R.Sという、自分のブランドを築く程に成長しました。



 最初、R3君と会った時の感想は、なんだこいつ?くらいなもんでした。


 本当にこんな凄い人になるなんて思わなかったし、大学の最後で仲良くなるとも思っていませんでした。


 最初はまぐれ当たりだったかもしれませんが、その後(ご)R3君はいつも素晴らしい態度で努力し続けたんです。R3君の凄さはそのメンタリティと行動力でした。


 才能なんて抽象的なものを補うに余りあるその精神力で、R3君は立派なデザイナーになったんです。


 まぁ、今売れてるのかとか、今どうしてるのかとか、そういうことまではわかりません。


 それに悔しくてちょっと嫉妬したこともありました。


 でも学生時代遊んだ仲間がそんなふうになれてほんとに良かったなって思います。

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