大学時代5 2014-01-26
大学生です。そんなにお金は持っていませんでした。
蒲田の雑踏で出会い系なんかで会ってくれる人を探したりいかにも怪しそうな階段の奥にあるような店に入ったりしました。
初めてなので勝手がわからず、どこまでならしていいの?
なんて聞いてました。すると、何してもいいのよ。と艶(なまめ)かしい肢体を這わせて女は言います。
暗い店内で欲情に身を任せて、女とキスしてる瞬間、その刹那だけは彼女のことを忘れられました。
でも、後(のち)に来る後悔は異常なほど私の心を責め苛(さいな)みます。
いい女が出てくることもあれば悪い女が出てくることもある。
博打(ばくち)みたいなもんでした。自棄(やけ)でした。
雨の中ずぶ濡れで走ってました。
なんてことしたんだ。なんてことしたんだ。
彼女に合わせる顔がない。取り消せない過去という汚れを抱いて
身体中切り付けるほどの心の痛みを感じました。
本当に、心って痛むんだな。
こんなに切なくて涙が出るなんて思ってもみなかった。
歌にある歌詞って本当なんだな。
何も幻想を歌ってるわけじゃなくて、人って、心ってこんなにも軋(きし)むのかと毎夜毎夜、涙で枕を濡らしました。
この頃、私の心を救ってくれるのは音楽だけでした。
それでも私はまだ若かった。
どんなに後ろめたい事があっても、彼女を一目、目にすれば元通り。
やっぱり好きだ。どうにかしたいともがき苦しみました。
純粋に恋心が燃え上がったのはきっと半年くらいだったでしょう。
鈍色(にびいろ)の塊(かたまり)に塵(ちり)が積(つも)るようにして、私の身体の大切な場所に彼女への想いは仕舞(しま)われていくことになります。
どんなことがあっても彼女には幸せになってもらいたかった。
それが私との未来じゃなくても、絶対に幸せになってもらいたかった。
だから私は、彼女以外の異性を好きにならなきゃとまで思い詰めました。
それでも、彼女の代わりになる人はいなかった。
彼女は世界で唯(ただ)一人。世の中数多(あまた)女性はいても、彼女は一人しかいない。
私の遠回しの片想いはなんとこの後(あと)、8年以上続きます。
彼女と出会ってから9年半、ようやく最近です。
彼女のことを諦められたのは。
私はただの男です。強い意志で彼女を想い続け献身的(けんしんてき)に彼女を支えられたわけではありません。
寧(むし)ろ、いつも彼女の陰をどこかで探して、いつもどこかで自分に負けて女性の魅力に感(かま)けて生きて参りました。
恥の多い生涯です。
彼女が好きだと言ってたMr.Childrenの『蘇生』を呪文のように聴いて彼女への想いを奮い立たせていました。
彼女への想いを断ち切れずに、この後(あと)も何度も何度も手紙を書きます。
なんとか彼女を喜ばせたくて、いつも音楽を聴きながら文章を練ってました。
その頃はデザインノートを持ち歩いて、閃いたアイディアとか服の構想やらなんやら、カッコいい人のスケッチやらなんやら、色々と描いてましたね。
でもそのノートには彼女への想いも書き殴っていました。
後(あと)から読み返すと、なんだか訳もわからないことも多いのですがそのデザインノートも10冊以上は書いたし、彼女には20通~30通の手紙を書く事になります。
いつも彼女のロッカーに入れて置いたんです。
返事は要らないからって、ほんとは死ぬほど返事が欲しいのにいつも素直になれなくて、何か押し殺すように、彼女を追っかけてました。
恋愛というより偏愛(へんあい)です。
彼女には決定的な何かがあった。
彼女に出会うために私は産まれて来たんだとさえ思っていた。
もう、この頃には彼女が私の全てだった。
それでも、学生生活は続きます。
冬休み明け、彼女と経済の授業で会うと彼女は中島美嘉のアルバムの事をありがとうって言ってくれました。
TSUTAYAで借りちゃったんじゃないの?なんて不貞腐(ふてくさ)れることしかできなかったけど長期の休みさえ乗り切れば、彼女との大学生活があります。
また、好意を膨(ふく)らませて、彼女に手紙を書くんです。
経済の授業ではいつも彼女は同じ席に座るから私はいつも隣に座っていました。
今考えれば、あれが一番彼女と近い距離にいた至福(しふく)の時間でした。
それ以上、彼女と距離が縮(ちぢ)まる事はこの先一度も訪れることはありません。
なんて恋したんでしょう。
私の大学生活は彼女を想う時間で埋め尽くされていたんです。
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