大学時代4 2014-01-26
文化祭が終わって、彼女との接点がなくなってしまうのを恐れた私は彼女にモデルを続けて欲しいって頼みました。
コートを作る約束をして、一度渋谷の街を一緒に歩いたこともあります。
生地選びをしようってことで渋谷にある生地屋さんを梯子して彼女の希望を聞くカウンセリングの真似事みたいなことをしました。
ファッション誌を切り抜いて作ったイメージブックを片手にスパゲッティ屋さんで、ボタンは大きい方がいいとか、丈はこのくらいでとか、そういう注文服に憧れていた私はそんな私に付き合ってくれる彼女が太陽のようでした。
もちろん、彼女とデートしたかったってのもあるんです。男ですし、好きなんですから、猛烈に。
彼女は夕飯一緒に食べてく?と言って、一緒にスパゲッティを食べた時にアイスも食べなよと強引に誘いました。渋々彼女は承諾して一つアイスを頼みました。
彼女に一口スプーンで食べさせて、私はそのまま食べました。
それが礼儀だというように。
というか間接キスしたいから食べさせたいんじゃなくて全部食べなくていいから、一口デザートも食べさせたいって気持ちでした。
だから彼女が私に渡したスプーンを紙ナプキンでくるんで私はそのままかぶりついたんです。
格好悪いことに零しました。彼女がナプキンをサッと取ってこちらに渡して来ました。
少し冷たい素振りで…
なんていうか欲が出て失敗したって奴ですね。
でも彼女は自慢の金魚の小銭入れをかわいいでしょ?って見せてくれたし彼女が着たいコートの色は生地に見蕩れた表情を見てわかりました。
少し薄いけど存在感のある元気なオレンジです。赤みの引いたオレンジっていうか、暖かみのある色でした。これね、これだね。なんて言って。
渋谷駅に戻ったら、今日はこれで、ありがとう。って言って彼女も満足げに帰って行きましたよ。
そんなこんなであっという間に冬がやって来ます。
大学の休みは長いですから、実家に帰ればよかったんです。
でも私は帰りませんでした。
私は『ニューシネマパラダイス』のトト少年みたいに仙台を旅立った気でいました。
まだ何も東京で成してないのに帰れやしない。
そういう変な自意識があったんですね。ナルシストっていうか私の人生、私が主人公、私が何でも決めると帰りませんでした。
そのまま2年生になっても帰らなかったんで成人式にもでませんでした。
今では後悔しています。
でもその頃の私はそうだったんです。
彼女は音楽はどんなの聴くの?って聞いたらコンピレーションアルバムなんかをよく聴くそうでMr.Childrenのファンだと言ってました。一番好きな曲は『over』だそうです。
そしてその頃発売されてた中島美嘉の『雪の華』が聴きたいって言ってたのでクリスマスプレゼントとばかりに彼女のロッカーの上の彼女の荷物入れの紙バッグの中に入れといたんです。
私はいつも婉曲的でした。直接会って話したら心臓が飛び出そうなくらい緊張するんです。
私はいつも彼女に贈り物を考えていました。でもお金は無いから手紙を書いたんです。
一生懸命(いっしょうけんめい)彼女に近づこうとしたんです。
ブランドバッグは買ってあげられない。宝石なんて無理。
愛情込めてコートを作ることとありったけの思いを言葉に代えて、彼女に渡し続けることになります。
結局コートは彼女が好きだったオレンジ色は買えませんでした。
そのとき買わなきゃ買われちゃうような人気の生地だったんですかね。
私なりにモスグリーンを選んで、彼女のコートのパターンを一生懸命(いっしょうけんめい)作りましたよ。
でも、学校の授業でジャケットを習うのは2年生のこと1年生の私には襟や袖は難しかったのです。
だから自分が持ってる灰色のアンドリュー・マッケンジーのコートを分解したりもしました。
いつでも作り出せるように用意はして、生地だって裏地だって余分に買ってできるだけ上等なものを買って、必死に取り組んだんですが大学での授業もあります。
てんやわんやで結局いつも机の上に大事に置いて、コート作りは進まずにいたずらに時だけが過ぎて行きました。
散々好きで、もう大好きで、彼女と話す度、心がほぐれていくような安らぎを覚えていました。
心理学の教科書に恋愛感情テストって言うのがあって密かに彼女を思って回答しました。
その結果を聞くのは、2年生になって心理の授業を受けてからになるのですが十中八九、私は彼女に恋愛感情を抱いていました。好きで好きで堪(たま)らないんです。
大好きなんです。彼女のことで頭がいっぱいになって何も手につかない日々が続きました。
多摩川沿いを散歩してこの川もずっと下って行けば海にでるんだよなぁなんて鼻歌まじりに彼女を想って歌ってました。
この頃、彼女が好きだと言ってたMr.ChildrenやSpitzなんかを聴き漁ります。
全部自分のために歌われてると錯覚してしまうほど彼女に心酔していました。
でも冬休み、初めて迎える冬を私は一人では越えられなかった。
クリスマスが近づき、彼女から中島美嘉のアルバムのことの返事もない。
私が彼女に出会う前から彼女には社会人の彼が居る。
私は何度も一人で夜に啜(すす)り泣いていました。
きっと彼女はクリスマスを彼と過ごすのだろう。
彼女と彼は愛し合うことだろう。
私は耐えられなかったのです。
蒲田の歓楽街の夜道を一人でふらつくようになります。
そして、また一つ汚れていくんです。
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