第2話 七不思議に聞き込みだ
「何用かしら?」
「昨夜ここに誰か来ただろう」
「さあ、留守にしていたから分からないわ」
「どこに行っていたんだ?」
「三階トイレの次郎さんのところよ」
彼女はニヤリと笑う。
何をしに行っていたのか確認するのは野暮かセクハラだろう。条架は口を閉ざす。
代わりに次郎に話を聞いてみる事にした。
「朝まで一緒だったよ。目撃者?居たら呪い殺すよ」
そうだろうなと思い、次に行く。
三階に来た流れで、屋上へと続く階段に向かう。数えるたびに段数が変わると言われている彼に声をかける。
「ボクの事は十代目って呼んで〜」
のんびりした口調の階段も誰も見ていない。
同じ階の音楽室にも行ってみたが、目が光る肖像画も、勝手に鳴り出すピアノも、同じ意見だ。
「皆さん学校霊なのに、意外と知らないのですね」
「彼らは地縛霊だからな。持ち場を自由に離れられないのだろう。だが!」
大本命である証人に会うため、二階に降りた。たどり着いたのは理科準備室。校内を歩き回る人体模型ならば何かを知っているはずだ!
そう確信していたのだが…。
「何も見てないよ、風になっていたから」
「暴走族か!?」
「しばらくぶりに外に出られたからさ、嬉しくてずっと校庭を走っていたんだよ」
「ん?外に出た?」
「細かい作業が苦手で鍵を開けられないんだけど、昨日は一箇所空いていたから」
空いていたという、体育館へ続く渡り廊下の扉にやって来た。廊下といっても、隙間があり、校庭に出られる仕様だ。
出られるという事は入れるという事。
「女生徒と犯人はここから侵入したのか?」
だが警察の調べでは校内は密室だった。
犯人は被害者と共に忍び込び、中から鍵を掛けて、どこかに隠れた。
そんな事をする理由は何だ?
見つかる危険を冒してまで密室にする理由なんかない筈だ。さっさと逃げるだろう。自分ならそうする。
「頭がこんがらがってきた」
「職員室から飲み物を貰ってきます」
パタパタと走る姿が可愛らしい、甲斐甲斐しく世話を焼いてもらえる嬉しさを噛みしめる。
年下の彼女というのは、条架の憧れ。
もし付き合える事になっても、彼は紳士なので卒業までしっかり待つつもりだ。未成年に手を出すなど言語道断、川に流されればいい。
「そういえば体育館にも七不思議があったな」
覗いてみると、誰も居ないのにバスケットボールが勝手に動いている。話しかけたが無視された。
まあ現場は校舎だ。体育館は関係ないだろうと、後にする。
三階階段まで戻ってきた。
麦茶のほどよい苦味が乾いた喉に心地良い。
「ありがとう、リフレッシュするよ」
「良かったです」
頬を薄紅色に染めた、あどけない笑顔が可愛い。彼女の為にも事件を解決しなくては。
「亡くなったアヤちゃんって、どんな子だったの?」
「優しくて気の弱い子でした。部活の先輩たちと上手くいっていなくて」
「まさか、いじめ?」
「はい。顧問の先生が見て見ぬふりなのをいい事に、ユニフォームや靴を隠されたり、倉庫に閉じ込められたり」
「ひどいな」
「いつも泣いていました」
被害者の少女は、散々な目に遭った上にむごく殺されたのだ。犯人を許せる筈がない。
事件が解決したらその先輩と顧問も一緒に叱らなければ。
「部活はなんだろう」
「バスケットボールです」
「ありがとう。さっそく調べないと」
座っていた、夜は十三段になる階段から立ち上がる。
「世話になったね」
「ごめんね先生〜。九代目だったらお役に立てたのに〜」
「ん?九代目?」
「ボクの先輩。地縛霊歴十年のベテランだったから、三階以外の階段についても分かったんだ〜」
「七不思議は、入れ替わるの?」
「うん。地縛霊がいる場所で死者が出たら、交代だよ〜」
「自由になった後は?」
「成仏する子もいるけど、だいたい浮遊霊になるかな〜。
その子みたいに」
助手の少女を見ようとして、視界がぐらついた。しまった、睡眠薬か。
何故、気づかなかったんだ。
初めに話しかけて来た時からおかしかったのに。生徒は誰も校内に入れないはずで、被害者の状態を知っている訳が無かった。
「お喋りな階段ね」
彼女の冷ややかな声が響き渡る。
三つ編みを解いてメガネを捨てた。もう純朴なフリは必要ないとばかりに美少女は冷酷に笑い、髪をかきあげた。
寝てはいけない。死んでしまう。だが、これはただの睡眠薬ではない。強い霊力が込められている。
「体育館に二十年居たのよ、あんたみたいな青二才には負けないわ」
昨夜見たあれは、お前だったに違いない。
条架は歯を食いしばりながら、深い眠りに落ちて行った。
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