脳内会議
ファミレスで夕食を済ませた真希と奈々子は、最寄り駅で別れた。
独り暮らしの賃貸マンションに帰宅した真希は、入浴しながら奈々子が
言ったことを考えていた。
奈々子から見ると、悠人は真希を意識しているらしい。真希には
とてもそうとは思えない。そもそも、悠人は、会社の花である受付嬢と
付き合っていて、理想的なカップルと思われていたのだ。その受付嬢は、
取引先の御曹司に見初められるほどの美貌を誇っていたのだ。
そんな男が、総務部で一般事務の自分を? いやいや、それはないでしょうと
自分でも思う。まぁ、自分のテリトリーをうろちょろしている女ぐらいには
認識されてはいるかも知れない。それも、真希が距離をおいていれば
そのうち意識下からは消えるだろう。
「イケメンでエリートっていうのも大変ねぇ。」
バスルームからでて、冷蔵庫から炭酸水の入ったペットボトルを取りだし、
リビングのソファに腰を下ろしながら真希は思わずつぶやいた。
もし、これが自分だったら、と真希は考えた。そうなると、普通の
営業部の男と普通の経理部の男と一般事務の私そんな組み合わせだろうか。
そもそも、私が同時に二人の男に言い寄られる?
笑えるそのシチュエーション。でも、誰も興味を示さないだろう。
せいぜい、関係部署でちょっとヒソヒソされるぐらいで。
しかし、悠人はそういうわけにはいかなかった。花穂は、退職して
もういないし、御曹司の方も結婚を機に父親の会社の役員に就任したらしく、
自らこの会社に訪ねてくることはない。残された悠人だけが、社員の興味本位の視線に晒されている。”針のむしろ”って、こんな状態を言うんだろうか、
周りの視線は非難でこそないが、当人はいたたまれないのではないかと
思ってしまう。いや、自分をしっかり持っている人みたいだから、
歯牙にも掛けていないかもしれない。
真希の余計な心配にも関わらず、こんな状況でも悠人は、黙々と
仕事をこなしている。生活が荒れているとか成績が落ちたという噂も聞かない。そんな姿勢が女性の庇護欲を誘うのか、独身女性の熱い視線も集めている。
何をしても人の注目を集める男なのだ。
「そんな男性と私がどうこうなるなんて、奈々子ちゃんはどうして
そんなこと思うんだろう。」
炭酸水を飲み干して真希はまたつぶやいた。
そもそも、悠人は、こんなことがあった後で、また、社内の女性と
恋愛関係になりたいと果たして思うだろうか。人気がある男だから、
恋人に立候補する女性は、沢山いるだろう。でも、彼はどうだろう。
新しい恋人が社内にいるということになれば、また注目を集めて
しまうだろう。なにより、社内でこれだけモテるのだから、社外でも
モテるだろう。営業先の女性社員を始めとして、彼が訪れる先には
必ず、彼に恋心を抱く女性が存在するだろう。
「じゃあなにも、わざわざ社内でお相手を見つける必要はないよね。」
また声が出てしまった。
自分には、全く関係のない人についてあれこれ考えてしまった。ほんと余計なお世話だなと思いながら真希はトラベラーズノートを引き寄せ、
週末予定している日帰りバス旅行の計画に目を通した。
小さな旅行会社ではあるが、女性に特化した企画を打ち出してくるのが
気に入っている。今回は、お一人様向け、グループ参加の場合は、
必ず偶数でという条件付き。特に楽しみにしているのは、酒蔵見学は
もちろんなのだが、この酒蔵では発酵技術を駆使してオリジナルの
スキンケア用品を開発しており、肌に優しい使用感が口コミで広がっている。
eauのママさんも愛用しているとのことで、真希も現地でしか手に入らないと
言われているものを入手したいと考えていた。
旅行の集合時間が早いため、金曜日はeauには行けない、ママさんには
来週末お土産を持って行こうなどと考えながらトラベラーズノートに現地で
購入したいもの、見たいものリストを書き込んでいった。
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