第55話・相対性理論・光速度を介した時空の振る舞い

理解できているかな?

混乱するよね。

だけどもういっこ、重要なやつを理解してもらわなきゃならない。

重力=加速度は、空間だけじゃなく、時間をもゆがめる、という問題だ。

うそだろー!?と思うでしょ。

ところが、光速度を不変と設定すると、ここまで見てきたようなシンプルな理屈で、時間はゆがむんだ。

もう一度、ロケットの部屋に戻ってみる。

ロケットは、下から上に進んで(飛んで)いる。

今回は、等速度でもかまわない。

ロケット内にはひとりの人物がいて、さっききみがやったのと同様に、部屋の壁から反対側の壁に向かって、水平にレーザー光を照射する実験をしている。

今回のきみは、その様子をロケットの外側(静止した宇宙空間)から傍観する立場だ。

ロケットは透明な素材でできているので、部屋内の実験の様子が丸見えなんだ。

それを、ロケットが目の前を下から上へと通り過ぎていく間に観察してみよう。

実験者が放つ光の航跡は、きみの目にはどう映るだろうか?

今、ロケットが下から上昇してきて、きみの目の前にさしかかった。

その瞬間に、レーザー光が右の壁から左の壁に発射される。

あざやかな光の航跡が引かれる。

対面の壁に命中。

光は直線的に進んだはずだが、発射されてから対面に到達するまでの間に、ロケットは少しだけ上昇している。

ということは、きみの視界内でレーザー光の航跡は、真横一直線ではなく、右下から左ななめ上に向かって引かれたことになる。

シャッタースピードを落としたカメラを使えばよくわかる。

発射点よりも到達点の方が上方にずれたために、つまりねらった的がロケットの壁ごと上に移動したために、きみは光をななめ上方向に追尾しなきゃならなかったんだ。

この光の航跡の長さを、きみは「1」と計測した。

さて、ロケットはギアチェンジをしてスピードを上げ、宇宙空間をぐるりとめぐって、またさっきのようにきみの元に戻ってきた。

が、今度はさっきとは比べものにならないほどのものすごい高速航行に入っている。

光の何%か、というほどの猛スピードで進んでいるんだ。

ロケットがきみの視界の下方から姿を現し、ぐんぐんと上昇しながら、前方を通りかかる。

きみの目の前に達し、その瞬間に、ロケット内の実験者はレーザー光を発射する。

きみから見てロケットの右側の壁から出た光は、左側の壁に到達する。

光の残像が、きみの網膜に焼きつけられる。

そのとき、右下から左ななめ上に向かって引かれた光の航跡は、さっきよりもずいぶん長くなっている。

さっきと同じ時間内に、ロケットはもっとすごいスピードで、下から上にかなりの長い距離を移動したからね。

レーザー光の航跡の長さを計測すると、「10」だった。

光が、さっきの十倍に伸びた!

同じ時間内なのに!?

・・・この結果を、どう考えるか。

アインシュタインさんは、「光の速度は、誰にとっても、どんな状況下でも、絶対におんなじ!」と腹をくくったひとだから、こう解釈する。

「航行スピードが速くなった分、ロケット内の時間が遅くなった」と。

わかるかな?

光の航跡が10倍に伸びた→光は絶対に同じスピードで進む→ゆえに、ロケット内では10倍の時間が過ぎた・・・という結論が導き出されるわけだ。

ロケット内にいる実験者には、一回めの照射でも、二回めの照射でも、なにも変わらなく思えただろう。

こっちの壁からあっちの壁まで、光がたどり着く時間は、彼にとってはまったく同じだった。

まったく同じ時間内に、光がまったく同じ距離を進むというまったく同じ実験をして過ごし、まったく同じ光景を見ていたといえる(ダッシュボードのスピードメーターの数値以外はね)。

ただしそれは、実験者氏の意識を基準にしたら、の話だ。

ところが、ロケットの外にいたきみは知っている。

一回めの照射でレーザー光が対面の壁に到達したはずの時間内に、二回めの照射では、そのわずか1/10の距離までしか光は通過できていなかった、ということを。

のんびりと飛んでいた一回めよりも、スピードを上げた二回めの方が、ロケット内の実験者はゆっくりと流れる時間の中にいた、ということを。

ロケットはさっきよりもはるかに速く飛んでいるのに、ロケット内の光景は10倍のスローモーションで動いていた。

実験者氏ときみとは、明らかに別の時間の進み方をするふたつの系にへだてられていたんだ。

逆に、二回めの照射をした実験者氏からこちらを見たら、きみはチャカチャカとせわしなく、つまり一回めの10倍速で動いているように見えたにちがいない。

まったく不思議なことだ。

だけど、こうして図式にするとまったく矛盾なく説明できるように、これは事実なんだ。

スピードが、時間をゆがめたんだ!

あるいは相対的に、こういう言い方もできる。

「ロケット内の空間が、進行方向に縮んだ」と。

二度の実験で計測した二本の光の航跡を、同じ長さにそろえてみよう(長い航跡の方を、縦方向にだけ縮尺コピーすればそろう)。

そしてそれを基準に、ロケット内の空間の比率を見比べてみればわかる。

高速航行していたときのロケットは短くなり、部屋の天井は低くなり、実験者氏の背はちんちくりんのチビ助になる。

だって、光速度は絶対に変わらないんだもの、そうならざるをえない。

一回めと、スピードを上げた二回めとで、光がまったく同時にあっちの壁に到達したのだとして空間をそろえたら、その尺は進行方向に向かって1/10に縮んでいなくてはならない。

空間側で合わせれば相対的に時間が伸び、時間側で合わせれば相対的に空間が縮むんだ。

不思議に思えるだろう?

だけどこれは、成長するきみの背丈を常に1キミーと設定して、家屋を縮んだものと結論づけたのと同じ理屈だ。

しかもこの現象は、まったくあたりまえに実証され、日常の中でも技術的に応用されている事実なんだ。

例えば、宇宙空間を高速で移動する人工衛星と、静止している地上との間では、時間の進み方が異なる。

だからこの計算を元にした補正がないと、カーナビの精度などに大幅な狂いが生じるんだよ。

時間と空間とは、お互いに干渉し合っているんだ。

それにしても、その両者間に光速度なんてものをはさむだけで、なんて明らかな結果が出るんだろう。

時間と空間の相互間の振る舞いを露見化させるのに、スピードという概念を持ち出したアインシュタインさんは、とんちが利いている。

なぜなら、スピードを求める式は、距離(空間)÷時間、と両方を押さえているからだ。

こうして、質量と、エネルギーと、時間と、空間と、それに光速度とがゴチャゴチャに絡み合いつつ、世界のルールは整然と、破綻なく、美しく定められているんだった。

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