第53話・相対性理論・等価原理
さて、そのことは後で説明するとして、ここでひとつ、単純な思考実験をしてみよう。
まず、ふたつの離れた場所にある部屋を思い浮かべる。
ひとつは、地球上の地面に建てられた掘っ建て小屋の部屋。
そしてもうひとつは、宇宙空間(重力ゼロ)を真上に向かって飛ぶロケット内の部屋、だ。
どちらの部屋も同じつくりで、どちらの部屋にもきみがいる。
きみはどちらの部屋でも、まったく同じように過ごせている。
なぜなら、ロケット内の部屋は無重力空間にありながら、「地球上の重力と同じだけの負荷がかかる加速度で飛んでいる(上昇してる)」からだ。
エレベーターで急上昇するとき、きみのからだは箱内の床に押しつけられるよね。
あの感じだ。
ロケット内にいるきみのからだには、加速度のせいで地上と同じ「上→下」に自身の体重が感じられるために、自分が地上の建物内にいるのか、宇宙空間のロケット内にいるのか、感覚的に区別がつかないんだ。
ただ、まったく同様の重みを感じている両者だけど、次のような状況の違いがある。
地上の部屋にいるきみは、地球の中心に向かって落っこちていく(重力で引っぱられている)足の裏を、地表面に受け止めてもらっている。
一方、ロケット内の部屋にいるきみは、加速上昇するロケットの床を足の裏で受け止めている。
きみ自身が下に向かって動いているのか、床面が上に向かって動いているのか、という違いだ。
だけどその力を感じるきみの足の裏は、自分がどっちの状況にいるのかを判断することができない。
そのおかげで、きみはふたつの状況下で、完全に同じ感覚で過ごすことができる。
このことから、重力なるものは、加速度と等価だとわかる。
では、なぜ地上に「下に向かう加速度」、すなわち重力が発生したのか?
それこそが、アインシュタインさんによれば、空間のゆがみだというんだな。
そして、なぜ空間にゆがみが生じるのかというと、地球の大きな質量(=強大なエネルギー)のせいなんだと。
・・・うーん、奇妙なアイデアだけど、一応、拝聴しておこうか。
アインシュタインさんによれば、天体のように高密度なエネルギー体は、自分を取り巻く空間をゆがませる。
空間が大きくゆがむということは、あるべき正規の地点と、ゆがんで新たに発生した地点とが、別々に存在するということだ。
そのゆがんだ地点(つまり今きみがいる地点)から、本来あるべき地点までの最短経路を、きみは移動して修正する必要がある。
つまりきみは、今いる場所から、重力の発生源に向けて、一直線に移動中なんだ。
今!・・・まさにこの瞬間も!
ただ、きみの足元には(たぶん)地面があるので、足の裏は受け止められ、移動しなくてすんでいる。
が、足元に地面がなければ、自由落下が開始される。
「落ちる」というやつだ。
そして、落ちる、とは、幻想面から実体面への最短距離の移動のことだ(この両者は逆かもしれないが)。
空間のゆがみは、落とし穴だ。
その落とし穴の底に向かう加速度が、「重力」と呼ばれる落下感の正体なんだ。
さてここで、うっかりときみは、なぜ加速?と考えるだろう。
慣性の法則を考えれば、ここは等速直線運動(一定のスピードで一直線に移動)ですむ気がする。
しかし、動きはじめたきみの慣性に変化を加える「よそからの力」、すなわち地球の質量が発生させる重力は、果てしなく連続的だ。
ボールを投げるときなどと違って、初期値の入力だけではすまない。
もう一度、慣性の法則の約束ごとを見直してみると、「よそから力を加えると運動が変化する」とある。
いったん、重力源への移動をはじめたきみのからだは、その方向(つまり真下)に向けて、絶えず力を加えられつづける。
運動(つまり落下)は変化(加速)しつづける。
それが、きみが絶えず足の裏に体重を感じつづけなければならない、つまりは重力の正体なんだった。
もちろん、きみ自身の質量も空間を少しだけゆがませ、地球もまたきみのつくるゆがみに対して加速してくる。
その現象を、ニュートンさんの万有引力の法則は、「質量を持つもの同士は引き合う」とデッサンした。
それに対して、アインシュタインさんの相対性理論は、「それらは引き合ってるわけじゃなく、空間のゆがんだ部分を加速し合ってるだけ」と、説明したんだった。
だけど、なんでそこに「時間」なんてものまでが一緒くたになってくるのか。
その説明にはなんと、「光速」が絡んでくる。
オールスターが大集結。
それがこの相対性理論の、包括的にしてシンプル、驚異的にしてエレガント、な点なんだ。
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