第52話・相対性理論・序章

その人物、アインシュタインさんは、自然現象を数式に落とし込むことによって、森羅万象の謎を明解にしてくれたひとだ。

彼は、この世の構造をシンプルに矛盾なく説明した。

前にも少しだけ触れたけど、「時間と空間」を、そして「エネルギーと質量」を、ひとつのものとしたんだ。

・・・ちょっと信じられないよね。

どうにも触覚では探りようにない「時間」の流れは、見た目にはっきりとひろがりと高さを持つ「空間」とはまるで関係ないもののように感じられるし、「エネルギー」というのは能力を意味する茫洋とした概念なんだから、われわれが日々こねまわしている、もの(「質量」を持つ実体)と同じとは思えない。

ところが、それらは同一の存在だというんだな。

そして、そのすべてを渾然として一体化させたのが、アインシュタインさんの相対性理論における「重力場の理論」だ。

これをざっくりと知っておこう。

まず、E=mc2、という式の意味は説明したよね。

この式は、質量とエネルギーとは「光のスピードの二乗」という係数を間にはさんで、お互いに入れ替われることを示している。

噛み砕いて言えば、ものとはエネルギーのひとつの形である、ということだ。

質量ってのは、静止エネルギーのものすごい集中、と言いかえられるんだ。

熱や音は、目に見えないほど激しく動きつづける運動エネルギーだ。

これを捕まえて、小さなエリアにみっしりと固めると、物質としてわれわれに認識される形になる。

例えば、電子・陽電子や、ニュートリノ・反ニュートリノが対になって、鏡の世界から、ぴょん、とこの世界に現れ出た(物質と反物質の対生成)よね。

これは、特殊な環境下において、エネルギーの集中があったからだ。

そのあまりの集中っぷりに、人間が感知できるまでの形態になったんだ。

エネルギーがものに変わる、という実際的な例だよ。

逆に、ものをわれわれの生きる物質社会から消し飛ばすと、その分だけエネルギー界の容積が増える。

こちらは、対消滅や、核融合時の質量欠損によるエネルギー放出メカニズムで見てきた。

きみの肉体は、エネルギーが圧縮されたものだ。

きみの体重が減ったら、きっちりとそれに見合う分だけのエネルギーが発生する。

そうしてきみは発熱し、力を出し、動いている。

きみの肉体がこの世から消え去るとき、きみはエネルギーになって宇宙に散開する。

きみの価値は、決して増えることもなければ、なくなることもない。

ただ移ろい、変容するだけなんだ。

新聞紙を燃やすと、灰になったり、炭が気化(おなじみの炭素+酸素→二酸化炭素)したりして質量を残しつつ、消えた部分は熱や光や音に変わって、エネルギー界に還元される。

そして、エネルギーをもう一度ギュッと濃縮させると、新聞紙になる(非常に難しい作業だけど)。

そういうことだよ。

例のビッグバンのとき、この世界で使いまわせるエネルギーの量は、最初にしてかつ最終的に決定された。

あの大爆発は、神様が世界にエネルギーを恵み与えてくださる、一度かぎりの大盤振る舞いだったんだ。

それ以降、エネルギーは決してつくれないし、消滅もしない。

エネルギーは、ただいろんな様式に姿を変えて、この世を立ちまわっている。

その一形態が、物質、つまりは質量、というわけなんだった。

さて、質量とはエネルギーがものすごく集中した形だ、と理解できたかな。

では次に、エネルギーは、時間と空間、すなわち「時空」をゆがめる、という話をしたい。

今、ふたつのものをひっくるめて、時空、と表現した。

アインシュタインさんによると、われわれがいるこの空間、つまり、横はば、奥行き、高さの三方向を持つ三次元世界と、時間というもうひとつの次元とは、一体につながっているというんだな。

横はばと奥行きがつながっていることは、実感として理解できるよね。

なぜなら、きみはななめに歩くことができるんだもの。

横はばと奥行き、そして高さが、切れ目なくつながって空間を構成していることには疑いの余地はない。

だけど、空間と時間とがつながっている、なんてことになると、にわかには信じられない。

しかもそれらは連動して、伸びたり、縮んだり、ゆがんだりする、というんだ。

空間の大きさも、時間の長さも、われわれは絶対的なものだと思っていて、事実、ゆがんだ部分なんて見たことがないよね。

万が一、ゆがんでいる空間を通りかかったりしたら、きみは骨折しちゃうだろうし、時間がゆっくり進んだり早く進んだりしたら、カップラーメンの麺の硬さが安定しない。

それでも、「速く動くひとの空間は縮む」し、「速く動くひとの時間は、静止しているひとの時間よりも遅く進む」んだよ、アインシュタインさんによれば。

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