第20話・強い力

電磁気力(クーロン力)・・・万有引力・・・と、これまでにも粒子間に働く、いろんな引力とくっつき方を見てきた。

だけど、今度のやつは最も奇妙なものだ。

それというのも、核子同士のくっつき方は、これまでとはまったく別ものの、「強い力」というやつの仕業なんだ。

強い力、というのは、力が強い、と小生が勝手に力に形容詞をのっけて評価しているわけじゃないよ。

固有名詞なんだ、「強い力」。

つまり、「わたくし、おかしいなと申します」と、岡・椎名さんという人物が自己紹介をしたとするよね。

だけどそのひとは、べつにおかしいわけじゃないでしょ。

ただ、名前を言っただけなんだから。

わかるかな?名前なんだよ、強い力という。

「このたび、陽子と陽子とを引き合わさせていただくことになりました、わたくし、『つよい・ちから』と申します」ってこと。

めんどくさがりの科学者が名付けたんだろうね、強い力。

ところがこの強い力の力(ややこしいな)は、あなどれないんだ。

クーロン力に比べて、100倍もの引きつけ力がある。

さすがに、強い、と名乗るだけのことはある。

それはつまり、くっついたらもう離さない、ということだ。

クーロン力(電磁気力)は、陽子と電子が引き合いながらもある範囲をもって自由に動きまわれる、ということからもわかるように、わりと融通がきく物わかりのいい引力(あるいは反発力)だった。

万有引力(重力)は、もっとゆるやかで、のんきなのんきな引きつけ屋だけど、弱まりながらも遠く宇宙の果てまで効果をおよぼす根性のあるやつだった。

一方で、新たに出現したこの強い力は、ただただ単純な力持ちだ。

寄ってきたら、つかんで離さない、というだけの単細胞なんだ。

なにしろ力が、1兆分の1ミリ、という超短距離にしか及ばない。

そこから先は、完全スルー。

だから、われわれ人間にはまるで感知できない。

だけど、素粒子からしたら、その力は驚異的だ。

この物語のいちばん最初に出てきた「クォーク」を覚えているよね。

三つのクォークが集まってくっつき、陽子や中性子ができたんだった。

そのクォーク三つを束ねている力こそが、強い力だ。

実は強い力は、クォークにのみ働きかける引力なんだ。

そして今、陽子と陽子がぶつかり合い、強い力が強く力を(ややこしいな)およぼそうとしている。

ふたつの陽子は、くっつき合う!

・・・が、小生がこの章において、「陽子と陽子がくっつく」とは言わず、「核子同士が」と表現していることに着目してほしい。

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