第2話・クォーク
たくさんバラまかれた粒は、どれも均一に小さくて小さくて、考えうるかぎりでいちばん小さい、というくらいにとても小さな粒だった。
どれくらい小さいかというと、ひとの目に見えないのはもちろんのこと、虫メガネでも、顕微鏡でも見えないし、そんな単位をはるかに超越して、あるのか無いのかさえよくわからない、というくらいの小ささだ。
これ以上はどうやってもふたつには刻みようがない、つまり文字通りに、最小の粒だよ。
細かな細かな、点みたいなものだ。
ところで、数学における「点」の定義って知ってる?
「大きさがなくて、位置だけがある」のが、点という言葉の約束ごとなんだ。
大きさがないなんて、すごいよね。
めちゃめちゃ研ぎすましたシャーペンの芯の先で、紙の上に、チョン、と「点」を書いても、それは厳密な意味では「点」じゃないんだ。
シャーペンの芯の先が残した黒丸のへりをそいでそいで、小さくして小さくして、ついに消え入ってしまう最後の中心の位置!
それこそが「点」というわけだ。
話を元に戻すけど、爆発の瞬間に宇宙にバラまかれたたくさんの小さな粒は、そんな点みたいなものなんだ。
「実在」と「無い」の境い目、というくらいの、かそけき存在。
ここから先は絶対に細かくは分解できない、小ささの行き止まり的な極小の粒。
そんな粒を、「素粒子」という。
そして、今生まれたこの素粒子=ものの種を、のちの人類は「クォーク」と名付けたんだった。
さて、物語に戻るよ。
爆発で、たくさんの、本当に無数といっていいほどのおびただしいクォークがバラまかれた。
それからほんのわずかたって、そうだね、1秒もしないくらいかな。
生まれたばかりの三つのクォークが、たまたま合体した。
ピタピターン、って感じ。
すると、なんとなく据わりのいい、見栄えがするからだつきになった。
こうして、小さな小さな旅人、「ヨウシ(陽子)」が生まれたんだ。
素粒子であるクォークが三つ集まって、ひとつの陽子。
この男の子、ヨウシくんが、今回の物語の主人公だよ。
ヨウシくんは、原初の爆発の勢いにのって、できたての宇宙を悠々と飛んでいく。
ヨウシくんは周囲を見渡す。
たくさんのクォークが飛んでいる。
生まれたての素粒子たちだ。
ゴチャゴチャの集団の中で、それらは正確に三つずつ、それぞれにくっつき合う。
そうして合体し、陽子となっては、ひろがりつづける宇宙空間にあまねく散開していく。
なんにもなかったこの世界に、最初の「なにか」が生まれはじめた光景だ。
たくさんの陽子。
それらはまさしく、物質を構成する最小単位、いちばんシンプルな「もののパーツ」だ。
それら・・・いや、「彼ら」と呼ぼう・・・彼らが、これ以降、宇宙におけるありとあらゆるものを、物質を、天体を、われわれの住む地球を、そして地球の環境を、いやいやそれどころか、われわれ人類までをもつくっていこうというんだ。
いったいどうやって?
それにはたくさんのプロセスが必要だ。
そして、その最初のプロセスが起こったわけだ。
今から138億年前のことだ。
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