ぼくらは星をつくった

もりを

第1話・ビッグバン

むかしむかし、すごくむかし。

すっ・・・ごくむかし、めちゃめちゃチョーむかし。

それは、昨日もない、さっきもない、つまり、「この前」がないくらいのむかし。

これから時間をスタートします!というくらいにむかしの話だよ。

この世界には、なんにもなかった。

というよりも、この世界は、なかったんだ。

想像できる?

人間がいない、動物もいない、魚もいない、昆虫もいない、微生物も細菌もいない、つまり生き物がいない。

草木もないし、それが生える山もない。

花もないし、それが咲く谷もない。

水がないんで、川も海もない。

だいたい土がないんで、大地そのものがない。

空気がないんで、空がない。

地球がない、太陽もない、月も、星も、それを散りばめる宇宙もない。

空間なるものがないから、そこには奥行きも、ひろがりも、上も下もない。

時間なるものがないから、そのときには昨日も、明日も、今日もない。

そもそも、「そこ」という場所がないし、「そのとき」という瞬間がない。

なんにもなんにも、なんっ・・・にもない。

無、だった。

そんな、はるかはるかむかしの話だよ。

この世で最初の出来事が起きた。

のちに出現する人類が「ビッグバン」と呼ぶことになる、重要な出来事だ。

突然に、ある一点が、ぽんっ、と破裂したんだ。

音もなく、爆風もない(なにしろ、空気がないんだから)、ただ強い光と激しい熱をともなう、奇妙な爆発だった。

その爆発は、なにも壊さなかった。(なにしろ、なにもないんだから)

そのかわりに、すべてを生み出した。

「すべて」というのは、本当にこの世のすべてだよ。

爆発は、「空間そのものをつくり」「時間をスタートさせ」、つまり「この世界をつくる」という仕事をしたんだ。

わかるかな?

この瞬間に、世界がはじまったんだ。

同時に、すべてのものが生み出された。

いや、すべての「ものの種」が生み出された、というべきだろう。

ここでいう「もの」とは、以降の世界を形づくるあらゆるもののことだ。

そして「ものの種」とは、あらゆる物質の原料、素材のことだ。

空気、水、土、植物、生き物・・・それらの材料、つまり「世界を構成するすべてのものをつくるための素」が、爆発の一点から飛び出したんだ。

それは、たくさんのたくさんの、ものすごくたくさんの、小さな粒だった。


もう少し物語風に言いまわしてみようかな。

なんにもなかったむかしむかし、一点(この頃には「場所」というものすらなかったんだ)でひとつの爆発が起こり、そこから小さな宇宙が開いた。

まばゆい光、とてつもない熱さ。

炸裂のすさまじい勢いにのって、宇宙はどんどんとひろがっていく。

なにもないところを耕すように、外へ外へと空間ができていったんだ。

ひょんなことから動きはじめた時間も、それきりとまることなく進みつづけ、過去から未来へ、という方向が定まった。

こうして、時間と空間が支配する「時空」という、この世界の原初的な舞台ができた。

そしてそこに、おびただしい粒がバラまかれたんだった。

それはまるで神様が、「これでいろいろなものをおつくり」と言って、われわれの世界に与えてくださったみたいに。

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