第5話

 「いやぁ、まさかお前が音大に一発合格するとは思ってもみなかったな……」


 夜8時半のファミレスに、龍平と夏生はいる。


「あぁ、たまたまだったんだよ。なんかな、神社にお祈りしたら、その日から勉強が好きになってな……」


「ふぅーん、ご利益があったのかも知れなかったな。それよか、ライブはどうするか?」


「いや、やるのは当然だろ?」


「だよな、早速明日から練習するか!」


「あぁ!」


 彼等は意気揚々として立ち上がる。


 会計をしようと足を進めると、春子とその家族が店内に入ってくる。


「春子……」


「やぁ、夏生。これからご飯なの、またね」


 春子は何かを言いたそうな顔をしており、何かあったのか夏生は気になっているのだが、秋子の言ったことを思い出して、深く詮索するのをやめた。


 ♫♫♫♫


 青春を駆け抜けた3年間の濃い日々が終えて、卒業式の後のライブを残すだけになった。


 体育館でのライブの開催前に、夏生と龍平は二人で待合室がわりの個室にいて、ギターの弦を軽くかき鳴らしている。


「なぁ……」


 夏生は、先程から無性にタバコが吸いたくなっているのを我慢しているのか、貧乏揺すりをし、龍平に聞きたいことがあるのか口を開いて尋ねる。


「春子の進路ってどうなったんだ……? あいつ、ラインで聞いても教えてくれねーんだ……」


「さあな、それは、春子ちゃんがいうまで聞かない事だ……」


 コンコンと扉がノックされて、はい、と龍平が返事をすると、そこには、金髪のマッシュヘアーの女の子がいる。


「あの、龍平さん、これ、読んでください!」


 その子は、龍平にピンク色の手紙を手渡して、そそくさと立ち去って行った。


「おぉ、童貞が卒業できるかもしれないな」


 夏生はニヤニヤと笑い、照れ臭そうに顔を赤くしてる龍平を見やる。


「出番だよお前ら」


 茶髪の同級生が部屋に入ってきて、夏生達の出番を教える。


「行くか、最後のライブ」


「あぁ、そうだな」


 彼等はギターを片手に、立ち上がった。


 ♫♫♫♫


 深夜11時半の公園に、卒業生達は集まり、打ち上げと称して酒を飲み交わしている。


 近隣の住民は知っているのだが、どうせ最後だから好き勝手やらしてやれ、と粋な計らいで黙認しているのである。


 夏生と春子は、仲間から離れて、小高い丘の上にいる。


「なぁ、春子……」


「んん……」


「実は俺、お前が……好きなんだ」


 春子は少し考えて立ち上がり、星空が見える場所へと足を進める。


「夏生、私ね……実は、来週に海外の大学に留学するの」


「え……?」


「おい夏生! また演奏しようぜ!」


 後ろから龍平の声が聞こえ、彼等は我に帰り、仲間の元へと足を進める。


 ♫♫♫♫


 「で、お前さんは振られちまったってわけか……」


 卒業式から2日後の土曜日、夏生と龍平は学校が始まるまで暇であり、ゲームセンターで時間を潰している。


 夏生は煙草を吸いながら、コーヒーを口に運び、龍平がUFOキャッチャーで遊んでいるのを横目で見、ふと気になり、鞄の中を見やる。


「うん、あれっ?」


「どうしたんだよ?」


「ピックが無いんだよ、学校に忘れたのかな?」


「あのピックって洋楽かなんかのバンドのアルバムについてたやつだろ? 探してこいよ」


「いや、言われなくても行くわ、ちょっと学校に行ってくるわ」


 夏生は煙草を灰皿に揉み消して、椅子から立ち上がり、缶コーヒーを飲み干してゲームセンターを後にした。










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