第3話

 文化祭の打ち上げが終わり、月日は悪戯に過ぎていき、季節は12月の下旬となっており、あと少しで冬休みになっている。


「早く来週にならねーかなあ!」


 夏生は勉強は一応はしているのだが、すぐに飽きて音楽関連のサイトを開く始末であり、春子をはじめとしてクラスメイト全員が滑るだろうなと思っている。


「あんたねえ、勉強しなさいよ、ったくねえ!」


 春子は、脳みそが常人よりも少なく、右脳だけが極端に発達しているであろう頭を丸めた数学Ⅱの参考書でぽかんと叩き、スイカのような音が教室中に鳴り響き、進学組が大半を占めている教室の生徒の間で、どっと笑いが巻き起こった。


 教室の扉が開き、龍平が満面の笑みで入って来る。


「何だよ、龍、彼女が出来て童貞でも卒業したんか?」


「違えよ、音楽の専門学校に、特待生で入学が決まったんだよ!」


「マジで!」


「よかったじゃん、これで無茶なバイトしないで済むね」


 龍平の実家は、父親がリストラに遭い失職し、入学費用を稼ぐためにバイトをしていたのだ。


「卒業ライブの練習をしなくっちゃなあ!」


「おおいいべ、楽しみにしてるからよ!」


「お前ならば絶対にメジャーに行けるからなあ!」


 クラスメート達が口々にそう言い、龍平を祝福する。


「ちぇっ、いいなあ、俺も早くギター弾きて―!」


 夏生はギターが弾けないことで禁断症状が出ているのか、さっきからしきりに指を動かしている。


「あんたそれよか、勉強しなさいよ!」


 春子はそんな、生来のロッカーの夏生を見て、天性の馬鹿だなと思い深い溜息を付く。


 教室のドアが開き、頭頂部が禿げ上がり、腹が醜く出た40代後半の中年の男性教師が、複雑そうな表情を浮かべて春子の元へと歩み寄って来る。


「烏丸、放課後にちょっと職員室まで来てくれていいか?」


「ええ、わかりました」


 春子の顔が暗くなったのを、夏生達は見逃さなかった。


 ♬♬♬♬

 放課後、夏生は図書館へ、春子は予備校へと足を進める途中の道が一緒であるため、学校から離れたのをいい事に、タバコを吸いながら微糖のコーヒーを飲み、公園で一休みしている。


「なあっ……お前、先公と何話してたんだ?」


 夏生は疑問を顔に浮かべながら、春子に尋ねる。


「何って……いや別に、進路のこととか色々よ」


 春子は、何か重大なことを隠しているのか、二本目のタバコに火を付ける。


「ふーんそっかぁ。まぁ別にいいけれども……てかお前の志望校ってどこ?」


「いや別に単なる文系の大学よ」


「ふーんそっか」


 夏生はタバコを吸い終えて地面に揉み消して、缶コーヒーをぐいっと飲み干して立ち上がる。


「そろそろ行くか」


「そうね……ってねぇ、知ってた? ここから少し離れたところに小さな神社があって、そこって勉強とかの神様が祀られているみたいなのよ、行ってみない? そこ」


「あぁ、行くべ!」


 春子は夏生の手を握りしめて、足を進めていく。


 ☆☆☆☆


 道楽神社は、住宅地の中にあり、夏生達が住んでいる家からも離れており、春子に教えてもらう迄、夏生は全く気がつかなかった。


 こじんまりとした神社に彼らは着き、手を清めて賽銭箱の方へと足を進める。


「あれっ? お金がないや、煙草でいいか」


「うーん、タバコを吸う神様っているのかなぁ、まぁそれでもいいかもしれないけれども……」


 彼等は煙草を御供物として置き、お祈りをする。


「大学に合格しますように、っと」


 ふと、夏生の背筋に気配を感じて後ろを振り返ると、白いモヤのようなものが浮かび上がり、そしてすぐに消えていった。


「どうしたの? あんた」


「いやなんでもねー、……ところでお前、参考書はあるか?」


「いやあるけれども。どうしたのいきなり」


「いやな、急に勉強したくなっちまったんだよ……」


「ふーん、そっか、ならば御祈祷の効果はあったのかもねぇ」


 春子は頭を軽く掻き、鞄の中に入っている参考書を夏生に手渡した。


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