第2話

 灼熱ともいえる8月、夏盛りの一月を終えた高校生達は、面倒臭そうな顔をし、登校を始める。


「あーあ、今日から学校かよ、面倒臭ぇなー」


 受験生が大半を占めるクラスの中、龍平は大欠伸をしながら席に着き、お気に入りのアーティストがYouTubeで新曲を出していないかどうかチェックをしている。


「おはよう」


 春子は、薄く焼けた肌を周囲に見せながら、龍平の隣の席に座る。


「ハルちゃん、ナツは?」


 龍平は、受験生である筈の春子がなぜ焼けているのか、予備校通いで焼けたのかと疑問に思っている。


「いや、それがねぇ……」


「おっはよー!」


 髪を緑色に染めて、海の家の従業員と同じかそれ以上に黒く焼けた肌を見せるかのようにタンクトップを着ている夏生が、勢いよくドアを開けて教室に入ってきた。


「この子ったらねぇ、高校最後だからって、休みを丸々文化祭の練習と遊びに費やしちゃったのよ……」


「……こりゃあ、馬鹿につける薬はねぇな」


 春子と龍平は、隣の席で漫画を読みながら、YouTubeの動画を聴いている器用な夏生を見て、救いようがない馬鹿だなと思い、深い溜息をついた。


 ♫♫♫♫


 K高校の文化祭は、9月の上旬に行われる。


 「まったく馬鹿ねぇ、あんたって人は……」


 軽音楽部の部室で、ギターを軽くかき鳴らしている夏生を見て、彼等が受験生で一番大事な時期を、道楽とも言える音楽に費やしてしまった事を思い出し、春子は深い溜息をつく。


「まぁいいっしょ、浪人やAO入試があるし」


 龍平は、夏生に対してはそこまで不安に思ってはいない様子で、ギターの弦を指で軽く弾く。


「夏、そろそろ出番が来るぞ」


 茶髪で耳にピアスを開けている、夏生達の同級生の、馬のように長い面構えをした少年がステージを指差す。


「よっしゃ、行くか! ハル、ばっちし動画に撮っておいてくれよ!」


 夏生は春子の肩を叩き、ギターを片手に教室を出て行く。


「……!?」


 春子は、夏生の後ろ姿を見て、思わず二度見する。


 夏生の後ろ姿は、やけに大きく、眩しく、裸眼視力0.7の春子の目に魅力的に映った。


 ♫♫♫♫


 文化祭が終わり、彼等は打ち上げで、高校から少し離れた海岸に花火や酒、煙草を持ち寄り、談話をしている。


「俺のギターテク、最高だったろ!?」


 龍平は酒を飲んで酔っ払い、ロケット花火を海に向けて発射している。


 他のクラスメートの連中も、最後だとばかりに酒を飲み交わして、今後の事などを話している。


 夏生と春子は、彼等から少し離れた海岸沿いで二人きりで煙草を吸っている。


「ねぇ、夏……」


 春子はさっきから何かを言いたそうな顔をして空を見つめ、夏生に顔を戻す。


「え? どうしたん?」


 夏生はすでに出来上がってるのか、顔は真っ赤である。


「ううん、やっぱりなんでもない」


「そっか」


「おーい!」


 龍平が慌てて彼等の元へと近づいてくるのが夏生達の目に飛び込んでくる。


「ポリだ! バックレるぞ!」


「ヤベェ!」


 彼等は慌てて立ち上がり、荷物を纏める。


「行くぞ!」


 夏生は、春子の手を握りしめて走り出していこうとする。


「え!?」


 春子は思わず声をあげたが、夏生の手を再度握りしめて走り出した。




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