アングマール軍襲来
エルグ平原に侵入したアングマール軍がどう動くかは、あれこれシミュレーション考えてた。まずはハマからリューオン、さらにベラテと順番に落としてエレギオンに襲いかかるパターン。そうなれば文字通りエレギオンが最後の砦になっちゃうんだけど、
「コトリ、時間がかなりかかると思うの」
「そうよねぇ、エレギオンが健在なら包囲網の背後を攻撃されるリスクもあるし」
ほんじゃあ、いきなりエレギオンの包囲になるかだけど、
「やっぱり背後が危なくない。補給路をさらしてるようなものだし」
「そうよねぇ、そうなった時の打ち合わせはしてるけど、エレギオン単独包囲はないと思う」
アングマールは五個軍団いるから一遍に四つとも包囲するパターンだけど、
「だったらエレギオンを攻めるのは二個軍団ね。魔王が指揮してなかったら叩き潰してやる」
一番可能性が高そうなのはまずハマを全軍で攻めるんじゃないかって予測。アングマールはハムノン高原を制圧してるけど、エルグ平原に出るにはシャウスの道を通るしかないから、エルグ平原にも戦略拠点になる都市がまず欲しいだろうって考えると思うの。ハマはシャウスの道のエルグ平原側にあるから、ここを奪っておけばシャウの道の確保はより万全になるものね。
「ハマは落ちて欲しくないけど、五個軍団に攻められると苦しいかもね」
「なんとか援護したいけど、五個軍団が総出で囲まれると厳しいよね」
「じゃあ、そうなったら例の作戦やる?」
例の作戦とは騎馬隊単独での襲撃作戦です。歩兵部隊で援護に赴けば、待ってましたとばかりに会戦に持ち込まれそうやし、やれば勝てるかどうかに不安がテンコモリ。そこで騎馬隊の優速を利用してのかく乱戦術なの。
「準備はしてるけど、効果はどうだろ。そりゃ、ある程度は混乱してくれると思うけど、アングマール全軍を崩すのは無理だと思うの」
とにもかくにも出方を見ようとなったんだ。アングマール軍は予想通りハマを囲んだわ。ハマは本格的に防備を強化していて、城壁は十五メートル以上もあるの。これを動く塔で攻略するには二十メートル級のものが必要になるんだけど、木材調達はどうするかは注目してた。
そしたらアングマール軍にも知恵者がいたの。コトリもユッキーもシャウスの道を使って運び込んで来ると思っていたら、キボン川に木を流したのよ。ラウスの瀑布があるからロスも少なからず出たとは思ってるけど、やられたと思ったわ。
騎馬隊襲撃もやらせたけど、最初は効果があったと思う。とくに初回の時は兵糧部隊の襲撃に成功して存分な成果と言えるものだったけど。後は警戒がドンドン厳重になって、思わしい戦果があがらず、むしろ損害が気になるようになっていったの。とにかく騎馬隊は貴重だから、無理できないのよね。
でもハマは三ヶ月経っても落ちなかった。激戦は展開されているらしいの情報は入って来たけど落ちなかった。ここで動いたの。コトリは二個軍団を率いてハマに向かったの。ここまでの情報で『どうやら』ハマを囲んでいるのはアングマールの前衛部隊で、魔王の主力軍はまだ来ていないと読んだのよ。
でもコトリの動きは読まれてた。ドーベル将軍にリューオンの郊外で迎え撃たれ、負けはしなかったけど痛み分けでエレギオンに戻らざるを得なくなちゃったの。やはりアングマール軍は強いわ。痛み分けと言ったけど、客観的に見るとエレギオン軍は劣勢やった。大敗しなかったのは、ドーベル将軍が深追いしなかっただけだった。
「ユッキー、あかんかった」
「ドーベル将軍って、そんなに強いの?」
ドーベル将軍の用兵は鮮やかやった。ベッサスでのエレギオン軍の戦法を十分に検討していたみたいで、散兵部隊にも丈夫な大きな盾を持たせていた。それだけやなくて、盾を並べてあっという間に歩兵戦列組んじゃったのよ。盾は前だけでなく後列は頭の上に担ぎ上げてたから、上から矢を降らせる作戦も効果が乏しかったの。矢の効果が落ちた散兵戦は苦戦になってしまい。しかたがないから虎の子の騎兵隊に頑張らせて、なんとか総崩れを防いだぐらいかな。
リューオン郊外でエレギオン軍が撃退され戦局は動くことになったわ。ついに魔王の主力軍がハマに進出して一ヶ月でついに落城しちゃったの。そこから魔王がどう動くかに注目していたんだけど、リューオンもベラテも囲んだだけで積極的には攻めようとせず、エレギオンを目指して来るのがわかった。
「ところでコトリ、使わなかったの」
「うん、ドーベルってなかなか男前やったし。もちろん最後は使って逃げ延びたけど」
「それは今回限りにしてね。これは試合じゃなくて戦争だから」
「わかった」
これは災厄の呪いのことだけど、ハマを守り切れなかったのもこれだと思う。魔王がハマに来てから災厄の呪いが通じにくくなってるの。
「コトリが言ってた、エロ魔王の力ってこんな感じなんだ。これは手強いわ」
「そうでしょ」
「二人が組んでも厳しいかもしれない」
「でも、負けるもんか」
「あたりまえよ、あんな歩くチンポコ変質者なんか・・・」
ここで二人は声を合わせて、
「海の藻屑に変えてやる」
そしてついにエレギオン郊外にアングマール軍が姿を現したの。リューオンやベラテに包囲部隊を置いているはずだけど、それでもとても三~四個軍団程度に見えへんかった。
「ユッキー、どんだけおるねん」
「う~ん、たぶんだけどあれって高原都市の兵よ。根こそぎぐらい連れて来てる気がする」
城外に布陣を進める大軍団を眺めながら、いよいよ追い詰められた感覚が湧いてきたわ。ここで負けたらホントに後がないのよ。エレギオン住民は虐殺されるし、コトリだって魔王の御馳走にされてしまう。
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