続ホウキとチリ取り

 ヒマがあったら練習しとってんけど、ホウキはだいぶ上手くなった。もっともホウキだけで二十本ぐらい折ってもたから、侍女の嫌味はしっかりあった。


「次座の女神様。今は戦時体制で、モノは普段以上に大事にしないといけません。これが民のお手本である次座の女神様のなされる事ですか。それと次座の女神様は軍事研究と仰いましたが、ホウキを折る軍事研究など聞いたことがありません」


 うん、コトリも聞いたことがないのは同意やった。でもホウキが使えるようになって力の加減のコツをつかんだ気がするの。でもチリ取りは結構難しかってん。チリ取りもそれだけ操るんやったら出来るんやけど、ホウキとのコンビネーションがいるやんか。チリ取りまた壊したら侍女が怖いから、慎重にやって五個で済んでくれた。


 あれもコツやな。覚えてしまうとなんちゅう便利な能力やと感心したぐらい。ユッキーのやつ、早く教えてくれてたら、どれだけラク出来とったかわからんぐらい。思い出しても腹立つわ。でも、ホウキとチリ取りが自在に扱えるようになって、侍女にリベンジしたってん。例の人を自在にコントロールする実験台になってもろた。


「軍事研究に協力してくれないなぁ」

「ホウキとチリ取りですか?」

「そうよ。あれが軍事研究だって教えてあげたいの」

「おほほほ、次座の女神様も冗談がお好きで」

「じゃあ、イイわね」

「はい・・・」


 なるほどこりゃ、便利やわ。させたんはホウキとチリ取り使った掃除やったけど、初めてにしては結構スムーズにできたんよ。


「はい、おしまい」

「はぁ、はぁ、はぁ、これを研究されてたのですか」

「そうよ」

「さすがは知恵の女神様」


 コトリが発明したんやないけど、侍女も見直してくれた。


「でも、ホウキとチリ取りで掃除させるのに軍事的な意味があるのですか?」

「もちろんよ、そこから先は軍事機密だけど」


 段々わかってきたんは、送り込む力のコントロールみたいなの。岩の加工も上手くなってん。最初にやった時は壊しただけやったけど、イメージ通りに削ったり、切ったり出来るようになってん。ユッキーのとこの庭に鮮やかな切り口の石のベンチやテーブルがあったけど、あれもユッキーが作ったもんやとようわかったもの。


 ユッキーが出来た事はほぼ出来るようにはなってん。もっとも料理は結局出来へんかった。料理も温度調節まで出来たけど、味がね。すっごい繊細なコントロールが必要で、ちょっとミスったらムチャクチャ不味くなって食べられへんようになっちゃうの。それを修正しようとあれこれやっても、まさに泥沼のドツボ。何回かチャレンジしたけど、ついにあきらめた。失敗しときの空腹がたまらへんし、食べ物を粗末にするのは良くないものね。



 さて、問題の対魔王対策やねんけど、やってる途中に閃いてん。力は外に送り込めるやん。ここがポイントだって。ホウキやチリ取りだって力を送り込んだ結果のものやんか。だったら、女神のエネルギーを一点に集中して絞り出すことも可能なはずだって。でも、理屈はそうでも、そうは簡単にはいかへんかってん。


 でも絶対できるはずやと思てんよ。思った根拠がクソッ腹が立つけどクソ魔王。あの野郎は女神のエネルギーを搾り取るって言いふらしてるやんか。クソ魔王にできることが、この知恵の女神に出来へんはずないのよ。あんなエロ性獣に出来て、この清楚で純情可憐な女神に出来へんはずがあらへんもん。


 クソ魔王のやり方は女がエクスタシーに達した瞬間を狙うのやけど、ひょっとしたら、そこにカギがあるんやないかと最初は考えてん。そやから、毎日必死こいてマスターベーションに励んだ時期もあったぐらい。もちろんこれは、あくまでも軍事研究のためだよ。


 でも無駄やった。あの瞬間を自分で冷静に観察するんは無理やったんよ。それと、よく考えたら、たとえこの方法で成功しても魔王攻撃の前にマスかかなアカンのは変やし、イヤやんか。それも果てるまでやで。たとえ上手くいきそうでも、実戦では絶対に使いたくないから断固として中止にした。


 方針転換して、体の中のエネルギーの効率利用のコントロールをあれこれやってみたの。今まで考えた事もなかってんけど、外に自在に力が使えるようになると、体内のエネルギーコントロールも出来ることがわかってんよ。ここが突破口やった。体内のエネルギーコントロールが出来ると、体内の好きな場所にエネルギーを集中できるようになってきてん。


 結構どころやない集中力がいるんやけど、とりあえず手に集めてみた。そこからが日数かかってんけど、極度に高めたら噴出しそうな感じに段々なってきてん。でも、これを部屋でやるとやばそうな感じがプンプンしてた。庭でも拙そうやったから、やっぱり演習場でやることにした。


 演習場の隅っこで極度に集中力を高めたら、どういうたらエエんやろ。ちょうど出来物がプチンと潰れる感じで、一挙にエネルギーが噴出したんよ。


『ドッカーン』


 とりあえず前に何かが飛び出し、前の岩に当たってんけど、それこそ粉微塵になって吹き飛んでもた。それだけやなく、どうも斜め下に噴き出たみたいで、地面がドバっと掘れてた。同時にコトリはフラフラになっちゃった。全身のエネルギーが一挙に抜け落ちたって感じやった。


 これがコトリの最初に放った一撃やった。そうそう一撃の名前の由来やけど、あれ一発撃つと、次は撃てるもんじゃなかったのよ。一発しか撃てへんから一撃ってところ。最初の時なんて結局ぶっ倒れて演習場が大騒ぎになってもてん。大慌てで施療院に担ぎ込まれて、気が付いた時には三座の女神が、


「次座の女神様、いったいどうやったらこんな事になってしまわれるのですか」


 そのまま三日間の入院。一か月ぐらい体がだるかったもの。入院中にもあれこれ考えとってんけど、クソエロ魔王の変態行為の意味がなんとなく見えてきたの。クソエロ魔王が女をエクスタシーにさせるのは、女をそれに集中させるためだろうって。そりゃ、あの瞬間に女は他のことを考えることが出来へんぐらい集中していると言えるからな。


 とくに女神の場合は自分でやってわかったんやけど、集中したところにエネルギーも集まる傾向があるねん。考えることに集中したら頭にエネルギーが集まるし、手仕事に集中したら手に集まってくる感じと言えば良いのかな。だったらエクスタシーに達する時はアソコにエネルギーが集まっているはずだって。それをあの汚らわしいチンポコ経由で吸い取りやがるんだ。


 よくまあ、そんないやらしいことを考えつくんだって思いっきり軽蔑したわ。それにいくら軍事研究のためとはいえ、マスかきまくったのに赤面してしもた。あれも全部クソエロ魔王が残部悪い。コトリはマスかくより、ちゃんとやるのが好きなのよ。それなのに、それなのに、研究のためにマスかいたから・・・コンチクショウ覚えてやがれ、


「海の藻屑に変えてやる」


 でもそうとわかれば、土壇場勝負のベッドでの搾り尽くし合戦になった時の戦術の目途が立ったわ。体内のエネルギーをコントロールして、あそこにいかなようにすれば勝機があると思うの。そうなればコトリも気持ち良くなれないかもしれないけど、魔王のチンポコから思う存分搾り取れるじゃない。その時には目に物見せてやるから。


 一撃の二発目を試してみたのは、一か月後になったわ。一発目の時は全力を入れ過ぎてエライ目にあったから、その辺のコントロールを意識してやったら、まあまあの出来やった。そこで四座の女神に来てもらったの。だって一撃って一発しか撃てへんし、撃てばフラフラになっちゃうじゃない。だから、もう一人ぐらい撃てるのがいた方が嬉しいじゃない。ユッキーに教えようと思ったけど、前の大喧嘩からロクすっぽ口利いてないし。


 夜にコトリの家に来てもらって、やり方のコツをレクチャーしたの。体内エネルギーのコントロールをまず覚えてもらって、次の段階の任意のところに集中させる段階に入れたわ。庭でやってたのだけど、


「とにかく手に思いっきり集中させてごらん」


 四座の女神は真面目だから全身を輝かせながら集中しているのはよくわかったの。ただ、これ以上やれば飛び出てしまいそうだったから、


「この辺で今夜はオシマイにしよう」


 こう言ったんだけど、手遅れやった。四座の女神は極度の集中でコトリの言葉が耳に入らなくなっていたの。アッと思ったら、


『ドッカーン』


 天に向かって飛んでった。そのまま四座の女神は白目を剥いて失神。コトリは急いで施療院に運んでいったの。三座の女神も出て来てくれて、


「次座の女神様。四座の女神様に何をなされたのですか」


 このことがユッキーの耳に入り呼び出されちゃった。


「コトリ、何やってるの! コトリだけじゃなく四座の女神まであんな状態にしてしまって。今は非常体制なのよ。四座の女神にもやってもらわなければならないことがヤマほどあるのに。どうしてくれるのよ」


 しゃあないから事情を話したんよ。あの大喧嘩から久しぶりに口利いたんだけど、


「それって役に立つの? だって撃ったらあのザマじゃない」

「そこは辛いところだけど、威力はあるで」

「でも神に効果はホントにあるの?」

「やってへんからわからへん」


 一撃による瞬間燃焼理論も聞いてもらったんやけど、


「わたしもそんな感じはあるけど、あくまでも感じだけだし」

「でも神相手にテストできへんやんか」

「そこなのよね。たとえ効果があるとしても、エロ魔王に効くかどうかは未知数よ」


 冷静に考えればそうなんだけど、


「最後の手段ぐらいの価値はあるか・・・」

「でしょ、でしょ、一番のメリットはクソ魔王に触れずに使える点よ」

「その価値は認めるわ。とにかくエロ魔王は・・・」


 なんとか三十分ぐらいで悪口は終らせて、


「コトリ、ちょっと来てくれる」


 連れて行かれたのは、神殿の庭。


「さっき言ってたの、こんな感じかなぁ」


 そこの岩にスパッと小さな穴が開いちゃったの。


「これを最大出力でやる感じでイイのかな」

「ちょっとユッキー、前から出来たの?」

「ううん、コトリの話を聞いてたら、こんな感じだと思ったから」


 それにしても、なんでユッキーはあんなに器用やねん。


「コトリ、その一撃だけど、もう練習もしないでね。そろそろシャウスの道は突破されそうなの」


 いよいよ魔王が来るみたい。

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