第12話 男は語る①

 男は語りだした。

「まず、この部屋の事からお話しましょう」


「この白い部屋は【時の狭間はざま】なのです。貴女が今までいらした、あちらの部屋。彼処は【忘却ぼうきゃくおり】と呼ばれております」


「そして、この白い部屋にある、あのドアの向こうは……」


「今では『災いの亡国』と呼ばれている、その過去の【緑の庭園】へと繋がっているのです」


 女が悲しげな顔で言う。

「元はといえば、不幸な偶然が招いた悲劇だったのでございます」


 男は頷いて続ける。

「小さな姫様のお気に入りは、緑の庭園で花を摘んだり、鳥のさえずりに耳を傾けたりすることでした。そこには空色の鳥が飼われておりまして、その姿同様に声も、それはそれは美しいものでした」


「運命の日、姫様は緑の庭園にいました。その日はお妃様のお誕生日だったので、花を摘み花冠を作って、お母様にプレゼントなさろうとしていたのです」


「花冠は美しくできあがり、嬉しくなった姫様は、たまたま飛んできた空色の鳥の目の前に戯れに花冠を差し出しました」


「すると、何を勘違いしたのか、鳥はくちばしで花冠を咥えたと見る間もなく、緑の庭園の奥へと飛んで行ってしまったのです」

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