第4話

 学生街の通りを曲がって少し行った先、人気のラーメン屋の地下、待ち合わせの居酒屋に着くと、すでにヒロト達は席に座っていた。今日のメンツはヒロト、同じゼミの四年生、甲本ゲンジ、そしてぼくの三人である。講義で少し遅れたのを謝り席に着くと、ぼくらはさっそく乾杯をした。

「ヒロト、ゲンジ、内定おめでとう」グラスをぶつけ合うとぼくらはビールを勢いよくかきこんだ。たまらない。

「しかし、ヒロトは決まるのが遅かったよな。どうなることかと思ったぜ」ゲンジが言う。「まあ、なんにせよいいところに決まったから結果オーライなんだよ。ここまで引っ張ってあそこに内定したのはレアだろ?」ヒロトが返す。就職の形は、昔は「経団連」ってのがルールを設けていたようだけど、外資系企業の台頭によりルールは形骸化し、ついには消えてなくなった。今じゃ通年採用は当たり前。早いやつでは二年生の終わりには内定、いや、「事実上内定」と言ったほうがいい、が出る。これは高校生でも知っている社会の仕組みである。いい大学、いい会社に行けば人並みの生活は手に入り、だめならフリーターにでもなるしかない。若者は少しでもいい会社に入ろうと努力する。しかしながら全員が全員願った通りになるはずもない。街にはドロップアウトした失業者があふれかえり、その日暮らしの生活をしている。おかしな話だが、求人数は失業者を超えているのだ。しかしながらハローワークで紹介される求人なんて誰もやりたがらない、さらには低賃金の過酷な仕事である。誰も望んじゃいない。こうして国民の二極化が進んだ。これも高校生で習う内容だ。

 羽振りのいい会社、ほとんどが外国資本だが、に入って文化的な生活を送るか、ごみ箱を漁って一日をしのぐか。現在は「勝てば外資、負ければ物乞い」の時代である。当然国の税収は低下し、退職後にもらえる「年金」っていうものはぼくが小学生の時になくなった。国は次第に小さい政府となり、すべてが自己責任、そんな風潮が高まった。

 酒も入り、会は盛大に盛り上がった。給料が入ったら車が買いたいだの、卒業旅行は東南アジアをめぐりたいだの、あの教授は絶対ヅラだろうなどなど。

「そういやシロウ、お前彼女できたのか?」「いや、全然」

人ってのは大体、酒が入ると欲求に忠実になる。今夜もゲスい話で盛り上がっていくのだろう。「そうなのか、同学年にだれか気になるやついないのか?」やはりこの手の話が一番楽しい。誰が誰を好きなのか、誰が誰に捨てられたのか、誰が誰とやったのだとか。

「そういや三年の柳カオル、同じゼミのやつと付き合ってるんだってな」

ぼくは背筋が凍った。カオル、ぼくの同期。同期内では一番話せる女子である。見た目も悪くない。少し気にはなっていたが彼氏がいたのか。この手の話は非常に楽しいのだ。自分が輪の中にいる限りなら。

 日が変わろうかという時間になり、太った店員がこちらをしきりに見ている。そろそろ閉店の時間だ。「さて、そろそろ出ますか」ヒロトは腕輪をレジの端末にかざしぼくらに言った。「じゃあカオル、俺に4000円送っといてくれ。ゲンジは飲みすぎたから5000円な」「あいよ~」顔を赤らめたゲンジが答える。こいつ、絶対忘れるな。飲んだくれのゲンジを見て、ぼくはそう思った。

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三種の神器を拾って無双した件 @suke-kiyo

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