【Ⅴ】
「リヴさんって本当にロリコンなんですか?」
「あれ、もしかして疑われてますか? 殺してもいいですか?」
「なんでですか!?」
ちょうどテレビを見ていた真っ黒てるてる坊主の青年――リヴ・オーリオは、テーブルを拭いていた銀髪碧眼のメイドことスノウリリィを睨みつける。ぶかぶかの袖からナイフを取り出して見せた彼は、彼女に確かな殺意をアピールした。
テレビの画面に映っているのは、女児向けの魔法少女が主人公のアニメだ。勧善懲悪をテーマにした内容で、街で暴れ回る怪物を魔法少女たちが力を合わせて撃退するという幼い少女たちが好みそうなものである。少なくとも、若い青年が好むようなアニメではない。
ちょうど洗濯物を干し終えたユーシアが「あー、でもそうだよねぇ」と銀髪のメイドの言葉に同意してくる。
「リヴ君って
「幼女を
「うーん、俺にはよく分からない主張だ」
ユーシアは苦笑する。
リヴにとって幼女は、殺害対象にならない天使である。垢がこびりついたこの世に降り立った無垢なる天使であり、汚してはいけない天上の存在である。なので世の中のロリコンは考えを改めるべきだ、あれらを性愛の対象として見てはいけないのだ。
溢れ出るリヴの殺意に怯えることなく、彼女たちは本当に無垢な存在である。だから遠目から観察する分には問題ないのだ。それが画面の向こうであれば尚更だ。
「あ、そういえばさ。リヴ君がよく見てるそのアニメ、どうやら映画化するみたいだね」
「本当ですか? だったら三〇回は見に行かないと」
「それほど好きなんですか!?」
「なにを言ってるんですか。これはロリコン御用達の神アニメですよ。ヘビロテするのは当然でしょう」
当然のように言うリヴだが、その主張が一般的な性癖を持ち合わせるユーシアとスノウリリィには到底理解できない領域だった。
すると、今まで鑑賞していたアニメがエンディングを迎え、そして劇場版の案内を始める。どうやら新人声優を起用したらしく、新キャラ役を担うことについての意気込みと宣伝の為にテレビに映っていた。
艶のある黒い髪と極東出身らしい黒曜石の瞳。微笑みながらテレビに出ている少女は、まだ一三歳程度だろうか。
『劇場版恋して☆えんじぇう、エンジェルマリー役に抜擢されました、リオ・カディナです。まだ経験は浅いですが、精一杯頑張ります!』
さながら天使の如く微笑む新人声優の少女は、ロリコンであれば好みど真ん中だろう。同じくアニメを鑑賞していたネアも「かわいー」と画面に釘付けになっていた。
「あらら、結構可愛い子だね。リヴ君の好みじゃないの?」
「……そうですね。可愛いと思いますよ」
司会者の質問に辿々しく答えていく少女を、さながら成長を見守る親のような目線で眺めながらリヴは言う。
「元気そうで何よりです」
かつて存在した諜報官、
ここで今を生きる彼は、リヴ・オーリオというただの幼女は殺さないと決めている暗殺者である。
彼が幼女に対して何を見ているのか、それは彼自身しか知り得ないことだろう。
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