第31話 KP(キーパーソン)

「わかりました。また退院するまでお待ちしています」

新島村は、顔が引き攣りそうになりながら、電話☎️応対を終えると小谷に報告をした。

「鰐浜さん、手術になるそうです」

「そうか。やっぱりかあ」

爽やかな笑顔だった。

「ポキッと折れてましたか?」

まるでポッキーか、何かを食べていた時のように小谷は言った。


小谷は、田所に何とか食事🍽️を食べさせると、食器🍴を片付けた。新島村が、昼食後のマグミットを服薬をさせに田所に話しかける。

「お口開けてください」

指先🤌で薬を摘んで、田所の口の中に放り込む。水💦を飲んでもらい、車椅子👩‍🦽を押しながら洗面台に向かった。新島村が、田所に言った。

「ご飯🍚食べた後は歯🦷を磨きます」

「お母さん👩か!向かいに人が来はったえ?」

新島村はふと思った。田所のお母さん👩って、生きていたら100歳は越えているだろう。


「い、い、痛い!あんた、うちを殺す🔪のか?」

激しく両手👐を頭の上に持ちあげ、振り回し激しく抵抗した。翼🪽の折れたアホウドリ🦆が、バタバタともがいているかのように見える。

「殺しませんよ。お口👄をグチュグチュしてください」

そう言って激しく身体を左右に振るので、それを止めようと田所の身体を触ると反射的に激しく頭を横に振った。


「触るな!あかん。あかへん。殺す🔪んやろ?」

「そんな事するわけないじゃないですか?」

田所が、常にする「殺す🔪んやろ?」という問いかけには、何処かでそんな恐ろしい経験をした事があるのだろうか。昔は、市会議夫人だったのに、この被害妄想は何処からくるのだろう?


長男は、夫であった田所弥太郎の地盤を引き継ぎ市会議議員になっているらしいし、真っ当な家系だ。彼の選挙での訴えが、「母親の介護に従事した経験から、地元K市の福祉の充実をする!」というものらしい。しかし実際のキーパーソンは、娘の育子だし、長男が、このにじいろ🌈グループホーム🏠を訪れた事がなかった。経済面は、弥太郎が支えていて、生活面は育子が支えているというのが、本当の所だった。施設🏠に預けたままで、母親の介護をしていると言えるのは、正に政治家ならではだろうか。


田所の若い頃は、子供たちに対して厳しく教育したのかもしれない。子供たちが、成人したらその時の事もあって、その反動で母親には遠慮してか余り会いに来ないのだろうか。それは、あくまでも想像でしかないが、しっかり者の母が認知症になったのは、病気が原因なのか、遺伝🧬的な要素が原因なのかと戸惑っているのかもしれない。

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