第32話 帰宅願望
「馬鹿!馬鹿か?誰や!そこ!来るんか?殺すのか?🔪殺さへんのか?🔪」
田所には、一体何が見えているというのだろう。
『自分に構って欲しいという思いから殺すのかと訊ねているのだろうか?』
しかし田所は、いつから何をしたらこういった「殺されるのか?🔪」という問いかけをするようになったのだろう。
在宅時に何か家族👪から、そのような事を言われ脅されたのだろうか。娘の育子が、田所に何かをして「殺すのか?🔪」と訊ねられるようなタイプには見えなかった。それとも長男か、次男が以前田所にキツく当たったのだろうか。
育子が、訪問してきたら顔はわかるようで、「来てくれたんか!」と嬉しそうに言われるのだが、やがて急に表情が険しくなると、「殺すのか?」という言葉を何度も言い始める。
そして時には、「私の通帳を返せ!泥棒!」と喚き始める事がある。そうなると収集がつかなくなる。育子が側にいたとしたら、可哀想そうに貝🐚となって耐えるしかない。
「私を殺して🔪通帳を奪うのか?!両足🦵を折って殺す気やな?」
育子は、萎びれた表情になって、田所佳子の横で気を失ったかのように叱責され続けるのだ。顔を見に来ても、剥き出しの敵意に躊躇したり、困惑したりして会話が成立しないまま時間を過ごす事の方が多かった。
また田所は、昔の自分の記憶がごちゃ混ぜで、関西の有名大学を出たという自慢話をする事があるかと思えば、「大学なんかいったんやろか?」と訊ねてくる事もあった。
プライドが高く、昔は旦那の女性問題で非常に苦労していたと話した事がある。不安神経症的な妄想が、認知症になり、外側を覆っていた物が取れ根幹部分が残ったとして、気苦労のためにあんな風に何処かねじ曲がった可哀想な人になってしまったのかもしれない。
しかし、そんな暴言を吐いても、育子と会うのが一番安心するようだ。育子が帰った後にも気分がいいのかにこやかな余韻が残る。しかし、それが時間を経ると「家🏠に帰る!」と言う事がある。
帰宅願望が頭をもたげて、「家🏠に返して欲しい」という話を何度も職員が聞く事になる。田所佳子としては、自宅🏠に帰りたくて仕方がない。しかし、その今の自宅🏠は長男宅になっており、育子にしたら、何故田所佳子を家を出た人間が面倒を見なけれはならないのかといい事になるだろうし、今の田所佳子の状態では引き取る事は更に出来ない。田所の度重なる訴えに、やがて訪問して来た育子の表情も次第に険しくなってくる。
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