第11話 田所佳子の臥床
そして、もう一度立ち上がってもらい、しっかりパジャマを上まで上げる。そして再びベッドに座ってもらい「横になってください」と伝えた。掛け布団を掛け脱いだ服を畳む。
室内の電気💡を消そうと、スイッチ手を掛けると、近くにあるタンス🗄️の上に置かれた写真立てにふと目が行った。田所佳子の70歳のお祝い🥂の時に撮影した物だった。今より少しふっくらとした田所を中心とした家族👪の集合写真が飾られていた。
田所佳子には、不安神経症のようなところがあって、今の施設に来たのも家族から捨てられたのだと思っているかもしれない。70歳の誕生日の時には家族👪全員で写真を撮っていたのに。今では誕生日🎂を迎えても息子、娘の家族👪が、バラバラに施設にお祝いにくるだけだった。ふと田所の今の境遇が、可哀想な気がした。
しかし人は、幾つから死ぬ為に生きるようになるのだろうか?どんな老後が、良くて悪いのかはわからない。ただ息子、娘が居れば幸せなのかと思うけど、田所のところのように遺産相続でもめたりすると、息子や娘なんかいなければいない方が気楽なのかもしれない。
『夜間🌗、おとなしく寝てくれるだろうか?』
そう思いながら電気を消し、非常灯だけを点けた後、室内から立ち去ろうとすると、「もう行くんか?」と後ろから呟くような声が田所の聞こえて来た。
「今の一言は正気なのか?」
その何気無い一言が、金のタライの反響音のように新島村の心に響いた。
「ごめんね。また明日」
思わずそう言って居室を出ると、不機嫌そうに島部が遅番の仕事の1つである集積場に出すゴミ🗑️を1つの袋にまとめる仕事をしていた。慌てて新島村が「やります、やります」と言って近付くと、島部は新島村の顔を見るやいなや、壁に取り付けられた時計🕰️に顔を向けた。
「ほら、段取り良くしないと帰れないですよ」
『いつまでかかっているんだ』と、本当は言いたいんだろうなと思った。
手🖐️が遅いのと、サボっているのとは違うし、またパートの島部が、正職員の新島村に言うには気が引けるのか、何やら気遣ったような物言いしか出来なかった。遅番は、手際よく仕事を早く終え、さっさと帰って欲しかった。後はのんびりと夜勤の仕事にかかりたいという気持ちはよくわかる。
「あの大変、お忙しい所‥‥」
いきなり背後から声をかけられてビックリして振り返った。
「申し訳ないんですが、大変困ったことがあるんですが‥‥」と、突然203号室の佐久田万作が背後から近付いて来てそう話し掛けて来た。
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