第27話 210号室 石清水慎吾

傍我わきがさん、何がダメなんですか?」

「危ない。危ない」

認知症で、記憶が無くなり、また身体が動かなくなったが、「危ない」とか口から出るのは、危険な行為がわかっているという事なのだ。

人によって認知症の症状は違う。また人間🧑には例え認知症になったとはいえ、本能の部分が残っていて、相手が男性👨、女性👩の見分けがついたり、認知症の本人が、命の危険を及ぼされたりすると、「この人間は危険だ」と感じたら避けるようになる。また逆らったりする。


寝たきり状態は、傍我わきがと、谷河百合子、田所佳子の3人だった。傍我わきがは更に食事🍽️介助の必要があった。ベッド🛌上で身体を回転♻️させ、端坐位にする。両足が拘縮をして来ていた。傍我わきがは、余りの見事さに驚いているのか、口👄をぱくぱく開いた。そして、車椅子👩‍🦽に移乗した。傍我わきがは、ずっしりと重くやはり腰に来る。


「わい、ビックリや!」

突然、傍我が言うので驚いた。

「わい?傍我わきがさん、自分のことをわいというのですか?」

「そんなん、言うてへん」

傍我がそう言った。

「いえ、言いましたよ」

「怖い、怖い」

ぶつぶつと呟く。車椅子👩‍🦽のプレーキを外しフロアに向かう。予め決められている座席に着くと、プレーキを掛けた。その様子を見て、立川が谷河百合子の起床介助に向かう。


次に新島村は、田所佳子の居室に向かう途中、居室でいつもテレビ📺を観ている209号室の石清水慎吾に声をかけた。石清水慎吾は、時々テレビ📺に向かって話しかけていた。

石清水は、パン屋🍞を経営し、3店舗経営しているらしく、今は息子が跡を継いでいた。時々余り物のパン🍞を家族👪が持って来てくれることがあるのだが、調理パンはかなり美味しい。パン🍞屋で、働いている頃は、妻の言いなりで黙々と働くタイプのようだった。しかし、店で釣り銭を間違う。作り方などがわからなくなるなどの症状が出て、様子がおかしいという事で若年性アルツハイマー病と診断されたそうだ。その頃に、同時に妻の癌が発見され、急に自分に全ての事がかかって来ると、パニック状態になってしまったらしい。それほど妻を愛していたのか、ただ依存し切って頼っていただけだったのかはわからない。


石清水は、いつもテレビ📺をジッと観ているが、本当に内容が理解出来て観ているのかどうかは疑わしい。時々真っ暗な部屋の中で観ている事があるので「目が悪くなりますよ」と言って注意するくらいで、普段からおとなしいので一番手が掛からない。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る