19話 関西大回り 前編

7月のある日、僕は島崎さんを東貝塚駅近くの喫茶店に誘った、もちろん姉も一緒だ。 僕達は、各々注文を済ませ飲み物が届くと僕は

 「島崎さんさぁ、お盆ぐらいまでに空いてる日ってある? 出来れば平日で。」

 島崎さんは、少し不思議そうな顔をしながらもスマホを見て。

 「お盆ぐらいまでにだったら、いつでも空いてますけど? 何かあるんですか?」

 僕は少し、緊張しながらも。

 「え~と、さ。 3人どこか行けたらなぁ、って思ってさ。」

 「どこかというのは?」

 島崎さんが聞いてきた。

 「うん? 例えば、電車旅とかぁ、電車旅とか。」

 島崎さんは笑顔になり。

 「電車旅! いいですねぇ。どこ行くんですか?」

 「僕的には、JRの関西1dayきっぷを買って、関西大回り+オススメの駅に行ってみようかな、って思ってるんだけどもどうかな?」

 「うん! いいですねぇ、関西大回り。 色々な電車に乗れそうで、楽しみです。」

 「だったら、日付だけども…、8月3日の金曜日とかどうかな?」

 「私は行けますよ。」

 「お姉ちゃんは?」

 「うん? ごめんだけど、私は今回はいいわ。 その日、友達にUSJに行く約束やっちゃったからさぁ。」

 「えっ、だったら日付を変え…。」

 その時、姉からLAINで「嘘だけども、裕樹と島崎さんだけで楽しんできて。」と入っていた。 僕は、なんだか変な気持ちになりつつも。

 「お姉ちゃんが用事あるんだったら、仕方ないか。 だったら、僕と島崎さんの二人だけになるけど別にいい?」

 「えぇ。 私は全然構いませんよ。」

 「よし。だったら、8月3日の…朝7時45分に東貝塚駅に集合で行こうか。 きっぷもその時に渡すよ、いかんせん前売りだけだからさ。」

 「あぁ、だったら。 今お金渡しときますよ。」

 「いやいや。 いいよ、ちょっとしたトラベルライターに付いてくる感じで来ればいいから。」

 「そうですか? だったら、お言葉に甘えて。」

 僕と島崎さんの会話を聞いていた姉が、少し冷たい口調で

 「トラベルライターって、自分で言うかね?」と言ってきた、そしてその瞬間少し場が凍りついたような気がした…。



 そして、8月3日 午前7時35分

 予定より早く来てしまった…。

 というような事を考えていると、既に改札前で島崎さんが紅白のワンピース姿で待っていた。

 「おはよう。 島崎さん。」

 「あっ、おはようございます。 裕樹君。 今日、案内お願いします。」

 「それじゃ、一本早い電車で行こうか。

 あっ、忘れてたこれきっぷ。」

 「あっ、ありがとうございます。」

 僕は、島崎さんに関西1dayきっぷを渡し、僕達二人は改札内に入った。

 そして僕達は、東貝塚7時47分発 区間快速 和歌山行き 225系5100番台6両編成で日根野の一駅手前で降りた。

 「なんでここで降りたんですか?」

 島崎さんが聞いてきた。

 「日根野以南も快速運転をする数少ない、紀州路快速で行った方が早く着くんだよ。 でもこの電車はすごくて…もう来たから、続きは中で話そうか。」

 そのような事を話していたら、223系0番台8両編成の和歌山行きが入ってきたので、僕は1両面の前よりの座席に座った。

 「そういえばこの電車は切り離しは無いんですか?」

 島崎さんが聞いてきた。

 「うん。 この電車は数少ない単独の紀州路快速の和歌山方面行きなんだよ。 それに大阪環状線内から全8両編成で和歌山に行くのも、日根野以南快速運転の紀州路快速はこれだけなんだよ。」

 「へぇ~、それは珍しいですね。 ほとんどの電車が日根野で切り離しますからね。」

 「そうなんだよね・・・」

 「・・・」

 お互い同じ趣味をもっているとはいえ、男女2人きりで旅に出るとあって無言の時間が長かった。


 結局、無言のまま 8時27分 阪和線の終点和歌山駅に着いた。

 「次は和歌山線ですか?」

 島崎さんが聞いてきた。

 「うん。 和歌山線だけど、乗り換え時間が30分ぐらい時間があるね。」

 それを聞いた島崎さんは、少し恥ずかしそうに。

 「あっ、だったら。 ちょっとお手洗いに行きたいです。」

 「別にいいよ。 トイレは1番線にあるし、1番線にある中央改札横のコンビニに行かったし。」

 「そうですか。でしたら先にコンビニに行っといてください、後で行きますから。」

 「了解。 改札を出て左側のコンビニに行ってるから。」

 「わかりました。」

 そして、僕は島崎さんと一旦別れて中央改札を出て左側にあるコンビニであるものを買った。 その時、島崎さんが来て

 「何か買ったんですか?」

 と聞いてきた。

 「うん。 ちょっと、朝食を。」

 「あっ、それだったら私も買わなきゃ、朝食を食べてなかったんだ、忘れてた。」

 「朝食を食べてないのを、普通忘れる?」

 「・・・、とにかく私も何か買います。」

 「島崎さんさぁ、押し寿司とかって好き?」

 「えぇ。 好きですけど。」

 「だったら、君の分もあるから君は朝食買わなくて大丈夫だよ。」

 「あぁ、そうでしたか。 ありがとうございます。」

 「それじゃ、和歌山線のホームに行こうか。」

 「はい。」

 そして僕達は再び改札内に入り、和歌山線の発着する7番ホームへと向かった。 ホームに行くと、引退宣言のされている和歌山線の105系の奈良行きが停車していた。

 「ここからは3時間近く乗るから、覚悟しといてよ。」

 僕が島崎さんに言うと、彼女は

 「全然平気です。 というより、楽しみにしてました。」

 と明るく返してきた。

 そして、列車は和歌山駅を9時4分 、定刻に発車した。 そして、列車発車の際大きく揺れた。

 「裕樹君、今の揺れって何?」

 島崎さんが、発車直後に聞いてきた。

 「揺れ? ・・・あぁ、ブレーキ緩解確認のことかな?」

 「ブレーキ緩解確認?」

 「ブレーキ緩解確認ていうのは、非常ブレーキ緩解確認と通電状態・機器動作の目視確認を運転士がするために行うことで、主に非常ブレーキを使用した後に、発車する時になるんだけど。 ブレーキ緩解確認をやるのは古い電車が多いかな。

 ちなみに、揺れた理由ていうのは。 運転手さんが発車直後にノッチ、車で言うアクセルを切って、確認した後に再加速したから揺れたんだよ。」

 「へぇ、勉強になります。」


 列車は、和歌山駅を発車後大きく右にカーブをするとすぐに、吹田総合車両所日根野支所新在家派出所が見えてくる。 ここには、阪和線の昼間に運用が無い223系・225系や、和歌山線の105系・117系を見られる。 そして、一駅目の田井ノ瀬までの間は、駅間距離が離れているため100km近くのスピードで走り、国鉄車両独特のゴォーと言った、モーター音を響かせながら田んぼの中を駆け抜けていく。

 和歌山市はその後、紀の川に沿いながらこのまま東へ向かう、沿線には田んぼや沿線の名物でもある、桃や柿などの果樹園の間を、駆け抜けていく。

 そして、乗車から30分程経った所で僕は、

 「それじゃ、そろそろ朝食にしようか。」

 「はい。」

 僕は、先程買ったコンビニ袋の中から1つの箱を取り出し、箱の蓋を開けるとそこには、柿の葉に包まれた、柿の葉寿司が10個入っていた。

 柿の葉寿司とは、和歌山線の沿線でもある奈良県五條市付近の名産品で、 一口大の酢飯に鯖や鮭などの切り身と合わせ、柿の葉で包んで押しをかけた寿司で、酢飯がきいていて酸っぱくはあるが、一度食べると止まらなくなる。

 「中身は、鮭、海老、鯛だから。」

 「分かりました。 私、柿の葉寿司大好物なんですよ。」

 「柿の葉寿司が、大好物って結構しぶいね。まぁ、僕もそうだけど。」

 僕はそう言いながら、柿の葉をめくり中の寿司を食べた。 う~ん、この酢飯がたまらない…。


 列車は、気づけば高野山の麓の町。 橋本に着いていた。 この駅は、大阪なんばと高野山極楽橋とを結ぶ、南海高野線との乗り換え駅でもある。

 和歌山線は、単線の為。 途中駅で、列車のすれ違い待ちが生じる。 現に今も、対向の和歌山行きの待ち合わせをしていると、南海高野線のホームに、20m車体の6000系8両の急行が入ってきたが、同じホームの高野山側に17m車体の2300系4両の各駅停車 高野山極楽橋行きが停車していた。 その光景は、まるで連結する前にも見える。

 「電車の縦列駐車ってあるんですね。」

 その光景を見ていた、島崎さんが言ってきた。

 「南海高野線のホームは、線路が2本にホーム一本しかないからね。 列車の運用の関係で、縦列駐車にせざるおえないんだろう。

 それに比べて、JRは線路が3本もあるのに、南海の半分弱の本数しか無いなんて…。」

 「昔の、国鉄の力ですかね?」

 「たぶんね。」

 しばらくすると、対向列車が来て。 車両は再び、奈良へ向けて走り始めた。

 しかし、ここで寝落ちしてしまい。 起きたら、奈良県の高田駅だった。 ここからは、スイッチバック(方向変え)をして、桜井線 万葉まほろば線に直通して、奈良駅を目指す。

 ちなみに、島崎さんは僕の肩にもたれながら寝ていた。 さっきまで、どんな様子だったんだ…。

 万葉まほろば線に入ると、列車は途中の桜井駅から、進路を北へ向け奈良駅へ北上する。

 途中、そうめんが三輪明神や、天理教の総本山がある天理を過ぎると、列車は高架に上がり。 奈良駅に到着する。

 結果、島崎さんは知る限り。 万葉まほろば線内は、爆睡だった。 僕は、島崎さんを起こし、奈良駅で降りた。

 「うーん。 この後は、どうしますか?」

 島崎さんは、体を伸ばした後聞いてきた。

 「お腹空いてる?」

 「う~ん。 そこまで、空いてないかなぁ。」

 「それだったら、とりあえず京都に出ようか。 次は、奈良線のみやこ路快速だ。」


 僕達が、京都方面への乗り場で待っていると。 白色の221系6両が入ってきた。

 「221系だー!」

 島崎さんが、嬉しそうに言っている。

 「221系好きなの?」

 「はい。 とりあえず、乗りましょう、乗りましょう。」

 僕達は、221系に乗り込んだ。 車内は、阪和線の車両の、2+2verとも言える座席配置である。 というか、これがJR西日本の一般的な快速電車の座席である。

 僕達が、座席に座ると。 島崎さんは、周りの視線も少し気にしながら、少し小さな声で。

 「この221系は、国鉄民営化後初の電車で…。いやいや、こんなことは裕樹君も知ってますよね。」

 「うん。」

 「私、この電車の事を、ホワイトベースていうあだ名をつけてるんですよ! この、白昼に輝く白い車体に、試験走行時に湖西線で160kmを叩き出したりと、白くて早いから、ホワイトベースって言ってるんですよ!」




 島崎さんの、221系愛がわかったところで、今回はここまで。

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