残暑の夜に思うまま

@rent-drawing2

おもうままに

まだ時刻も夜十時と言うのに、部屋の電気は消してしまった。食事はとっくに終え、風呂も歯磨きもすまし、すると手持ちぶさたになってしまい、しまいには眠くもないのに眠ろうとする始末。かと言ってまだ目は冴えているので、なんとなしにインターネットやSNSをぼんやりと徘徊していた。

やりたいことも、やらなくてはいけないことも、確かに自分にはあった。口だけは達者な自分は、端から見れば立派な夢追い人。しかし中身は怠け者で、今も夢よりも不必要な休息を選んでいる。そんな自分にとって、SNSは時に自己嫌悪を誘発させる。

フォローはしているものも、ずっと非表示の設定にしようかと思っている、アイツ。不真面目で、性にだらしなく、性格もひねくれていて、何より絵もうまくないくせに、アイツの漫画はどうやら評価されているらしい。それをSNSにあげるのも気にくわない点のひとつだ。やれコメントがついた、やれ収入になった、やれランキング一位になったなど、他人にとってはどうでもいい自慢をツラツラと並べる。そのくせ、テキトウな世渡りでなんやかんや旨い汁ばかり吸ってやがる。

さぞかし他の人も気にくわないだろうと、ふと友人と集まったときにアイツのSNSを話題にしてみた。「なんかすごいみたいだね」と、無関心を装ったが、友人たちから批判を引き出したくてたまらなかった。結果として、あの場でアイツを不快に思ってるのは自分一人ということが判明した。

クーラーを消した部屋は、まだ残暑の季節ともあり少し蒸し暑い。しかし時より吹く風が、次の季節が迫っていること暗に伝えている。涼しい風と虫の音にどうしようもない焦燥感を抱き、窓を閉めた。本当は、自分でも分かっていた。

アイツが自分よりも積極的に新しい経験をしていること。アイツは寝る間も惜しんで漫画を描いていること。アイツはアイツなりに苦労していること。自分は色んなことから逃げて、今もなお逃げ道を探していること。

友人たちがアイツに腹をたてないのは、彼らもアイツも努力をしていて、同じ仲間と感じているからだ。自分はその戦いから逃げ、そんな自分への自己嫌悪を、成功しているアイツに向けているだけということ。

分かっているからこそ、今日もアイツのSNSのフォローを外せず、かと言ってベッドにへばりついた体も動かせず、このまま全て止まってしまえと、布団にくるまって強く目を閉じるのだ。

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