証拠隠滅
城崎
話
「今年も夏が終わるわね。この暑い時期、なにか出来たことはあった?」
「君と仲良くなることが出来たよ」
「仲良くだなんて、自惚れないで。私はそんなつもり、微塵もないんだけど」
「またまたぁ。照れないでよ」
「私の顔を見ても照れてるだなんて妄言が吐けるのは貴方だけだわ」
「褒めていただき光栄です」
○
「どうしてここに来たの?」
「やだなあ、君がいるからに決まってるじゃないか」
「馬鹿言わないで。どうせ言うなら、もっとマシな冗談にするべきだわ」
「冗談なんか、僕が言えると思う?」
「……そうね。言えるはずないわよね。馬鹿言ったのは私だったわ」
「ここ、眺めが良いね」
「それは認めるけれど、とにかく帰りなさい。ここは貴方のいる場所じゃないわ」
「君のいる場所が僕のいる場所だよ」
「そんなこと言って! 私がいて欲しい時にいてくれないじゃない」
「いて欲しいなら、いってくれないと分からないよ」
「私がそんなこと、素直に言えると思う?」
「……それもそうだね」
○
辺り一帯が炎の視界。これを消すには、どれだけの消火器が必要なのだろう。焼かれて死んでしまうというのは、とてつもなく苦しいんだろう。嫌だな、怖いな。熱に浮かされた頭が、あてもなくそんなことを考えている。ここももうすぐ、焼けてなくなってしまうだろう。その前に彼女を助けに行かなければ。彼女はどこなんだろう。彼女と行った場所は、もう既に焼けていた。最後の手がかりであるいつもの場所に行こうとしたとき、突如として目の前に人影が現れる。その人物は頭に浮かんでいた人物で、こちらへと手を差し出してきた。
「生きてる?」
「……なんとか」
「逃げましょう」
「どこに?」
「私がいつもいた場所に」
「屋上に? 隠れる場所もないのに?」
「落ちるの」
どこまでもまっすぐな視線で告げる彼女の顔に、一瞬見とれた。
「君にしては、大胆なお誘いだね」
「素敵でしょう」
「素敵だけど、こうして死の淵に陥らないと素直になってくれない君は少し卑怯だ」
「そういうところが好きなんじゃないの?」
「うん、そう。やっぱりお見通しなんだね」
証拠隠滅 城崎 @kaito8
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