本の世界『リピート・クロニクル』 8

 「リラリィ‼」

 「え…」


 フィフを抱きとめていたリラリィにはフィフの顔はみえていなかった。

だが、リラリィの後ろにいたスラストたちにはフィフの顔がみえていた。

目を閉じていたフィフが、再び瞳を開いていたのだ。

リラリィに声をかけたのだが、間にあわなかった。

フィフの手に握られていた短剣がリラリィの背中から心臓めがけて振り落とされた。


 「道連れ…だよ」

 「……フィフを殺したのは私…だから…」


 リラリィの言葉は最後まで紡がれることなく、途切れた。

最後の最後で、フィフに乗り移ってたものが表に出たのだろう。

その言葉を最後にフィフはもう瞳を開けることはなかった。

そしてリラリィの瞳も閉じられた。倒れる二人を氷架と黒羽が抱き止める。


 「二人は…どうなのじゃ…?」


 夢渡りの問いかけに、スラストはただ首を横に振るだけだった。


 「なんでなのです!?これが…これが仕組んだことなのです?愛し合う二人をなんで‼」


 ただ捺瀬は絶叫することしかできなかった。

二人を犠牲にして元の世界に戻らなければならないのか。

こんな納得できない終わり形のままこの世界を去らなければならないのか。

イヤだイヤだイヤだ。

泣き叫ぶ捺瀬の頭の中に不意に声が聞こえた。


 『お前が望むならば手を貸してやろう』


 それは甘いささやきだった。

捺瀬の目の前にぼんやりと人の姿が現れた。

けれどそれはスラストたちにはみえていないようだった。

見知らぬ相手。

こんな状態でなければ捺瀬はその手を取ることなどなかっただろう。

けれど差し出された手に捺瀬は自分の手を重ねた。


 次の瞬間、眩い 光が広がり全てを包んでいった。

だれもが目を瞑っていたため、時間が巻き戻っていくのをみていたのは、捺瀬に問いかけた人物だけだった。

ただ笑いながら、それを眺めていた。


 …そして…

 捺瀬は小高い丘の上に座っていた。

冷たい風が彼女の体温を奪っていく。


 ――時間が戻され、終わらない歴史を繰り返していく――

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チェイジング・サーガ 彼岸 風桜 @higanzakura

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