本の世界『リピート・クロニクル』 6
「そんな…最後のような言葉…」
「最後だよ?」
捺瀬の言葉に答えたのはスラストたちではなく、聞き覚えのない男性の声だった。
「‼…そんな…」
驚きと悲痛の声がリラリィの口から零れた。
スラストたちの表情も困惑の色を隠せなかった。
ユラリと空間が揺らぎ、捺瀬は目を閉じた。
その感覚はエレベーターで高層ビルの最上階へ一気に上がった時のような浮遊感と移動による気持ち悪さに似ていた。
その感覚が収まり、足が床についた。
目を開ければ先ほどの廊下ではなく、広い部屋にいた。
壁には廊下よりも多いろうそくがあり、そのどれもが火が点いていた。
しかし部屋が広いため、廊下の暗さとほぼ同じだった。
「捺瀬、下がれ。夢渡り」
「わかっておる。捺瀬の護りはまかせるがよい」
捺瀬の前に立つのはスラスト、リラリィ、氷架、黒羽で、隣にいるのは夢渡りだった。
スラストたちが見つめる一点にははっきりとはしないが、誰かがいるのがわかった。
「なぜだ…なんでこんなことを‼」
「必要だったからだよ~?」
声を荒げるスラストに、相手は楽しげに答える。
クスクスと笑い声も微かに聞こえる。
カツンと足音が響いて、相手が近づいてくる。
それは一定の距離で止まり、パチンと指を鳴らした。いくつもの光源がふわりと現れ、部屋全体を明るく照らす。
金色の髪、水色の瞳、笑顔のままの男性がそこにはいた。
「どうして…生きてる?…フィフ…あなたはわたしが……」
「死んだと思った?なら成功」
フィフは笑顔を崩さず、水色の瞳をまっすぐにリラリィに向けた。
なぜ彼は笑顔でいられるのだろう?
リラリィの表情は悲痛なものなのに。
リラリィの傷は癒えていないのに…
「なんでだよ、フィフ。お前、リラリィの恋人だっただろ!?なのに…なんで」
「魔術師であったあなたが、どうしてあんなことしたの?ちゃんと納得いく説明してよ」
氷架も黒羽もフィフのことを仲間だと思っていたのだ。
信じていたからこそ、フィフの行動を理解出来なかった。
何もわからないまま事件は起こり、納得など出来ていない。
不可解な行動の理由もわからないままだ。
「みんな、だまされてくれてありがとう~じゃあ分かるように説明してあげるよ。今現在リラリィは吸血鬼だけど、元々リラリィは人間の魔術師だったのを忘れてないよね?じゃあボクが人間の魔術師じゃなくても不思議はないよね」
フィフの言葉にスラストたちは、フィフとリラリィを見つめる。
けれど捺瀬はどういうことなのかわからなかった。
「どういうことなのです?」
「…私とフィフは異世界からの移住者。フィフも私も人間の魔術師だった」
「リラリィ、君を吸血鬼にしたのは?」
「…フィフ…」
「それが答えだよ?魔術で吸血鬼にする方法はリラリィは知ってる?知らないよね~そんな魔術なんてないんだから~」
クスクスと楽しそうに笑うフィフを忌々しそうにスラストが見つめる。
そういうことかよと呟く黒羽の言葉には悲しさが含まれていた。
理解できない捺瀬に、リラリィがポツリポツリと語る。
リラリィが『クローズ』に来たときに、そばにはフィフの姿はなく、戸惑う彼女を見つけたのは黒羽だった。
リラリィが危険にならないように、黒羽はリラリィをただ見守るしか出来なかった。
リラリィが人間であること、また魔力を感じたため、魔術師であると黒羽はすぐにわかった。
その後氷架に保護されたフィフと合流したのだが、フィフ本人から人間であり魔術師であると聞いたため、疑うことはなかった。
それがフィフによる刷り込みだったのだ。
リラリィが以前吸血鬼に襲われたことがあった。
人間である限りそういった危険が伴うからと、フィフの判断で魔術で吸血鬼にしたと…
けれどリラリィ本人はその時眠っていて直接どうやって吸血鬼になったのかを知らなかった。
またほかの皆はフィフに任せていたため、直接はみていないのだ。
だが、先ほどの言葉といい、よくよく考えれば魔術で吸血鬼にすることなど出来ない。
吸血鬼の血を体内に入れない限り、吸血鬼に変えることなどできないのだから。
そうフィフの言葉を信じていたため、それを忘れていたのだ。
まさに盲点だったのだ。
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