本の世界『リピート・クロニクル』 4

 「…私のせいで捺瀬を巻き込んでしまった…」

 「…リラリィのせいではないのです。もし本当にリラリィが原因であったとしても、私は責める気にはなれないなのです」

 「…ありがとう…」


 リラリィは笑顔を見せるがそれはどこか悲しげな笑顔だった。

その笑顔に心が痛む。

リラリィの腕にはまだ包帯が巻かれている。

あの日怪我していた傷口の上に巻かれているものだ。

それだけでも痛々しいのに、彼女の心の内を考えたらリラリィを責める気になどなれないのだ。それは他のみんなも同じだろう。

リラリィの入れてくれたお茶を飲みながら、ただ夕日を見つめてた。


 「フィフが操られていたのか、それともあれが枯れの本性だったのか私にはわからない。ずっと一緒にいたのに…彼の心の中を知ることはできなかった」


 ポツリとリラリィが零した言葉。

それは捺瀬の心に突き刺さった。

フィフとリラリィは幼馴染で恋人であったにも関わらず、リラリィはフィフと一緒にいたのに彼の心の中を知ることはできなかったと。

聞いた話でしかないが、捺瀬が『クローズ』に来る直前、リラリィとフィフは敵対する状態になっていたらしい。

急に態度が豹変したフィフは、スラストたちを傷付けようとした。

それを止めるためにリラリィは立ち向かい…愛する人を手にかけた。

リラリィも無傷とはいえず、左腕に深い傷を負った。

それだけでも大変だったのに、夢渡りから告げられたのは時空の迷い子の出現。

リラリィが自分とフィフのせいでと考えるのも無理ないだろう


 そんな彼女たちを自分の城へと転移させ、スラストは一人で時空の迷い子である捺瀬を探してくれた。

全てを聞いたとき、捺瀬はスラストに対して特別な感情を持っていることに気づいた。

『クローズ』に来て夕日に惑わされているところを助けてもらってから、何かとそばにいてくれる存在。

けれどスラストの心の中を知ることは出来ない。

一緒にいるからこそ、捺瀬はスラストが仲間思いなのを知っている。

優しく捺瀬の頭をリラリィが撫ぜる。


 「捺瀬…その感情を大切にして。私がいえることではないけど、スラストは仲間思いの分一人で抱えることがある。その時捺瀬が支えてあげて」

 「!?気づいて…」

 「私も捺瀬の気持ちは分かるから。誰かを好きだと思う気持ちね。捺瀬が元の世界に戻っても縁は消えない。だからいつか再び出会えるわ」

 「リラリィ…ありがとう」


 フワリと優しく笑うリラリィに釣られて、捺瀬も微笑んだ。


 それを影で扉の影でみていたスラストは何もいわず、その場を立ち去った。

僅かに赤くなった頬を隠すかのように。

自室に戻ったスラストは壁に背をつけたまま、ズルズルと音を立てて床に座りこんだ。


 「…帰したくない…それが我のわがままだと分かっているのに…止められそうにもないのだ…このまま元の世界に戻る方法など見つからなければ…いや、悪魔の花嫁にしてしまいたいとまで思う……捺瀬、そなたは我の醜い心の中を知る必要はないのだ」


 ポツリポツリとスラストが吐き出した言葉は誰にも聞かれることはなかった。

前向きな考え、異世界でありながらスラストたちを仲間と慕う姿、そして先ほどの笑顔。

それらを知るたびにスラストは捺瀬に惹かれていく。

いつかはこの世界からいなくなってしまうと分かっていながら、愛しいと思う気持ちは止められなくなっていた。

いや、元々止められるものではなかったのだろう。


 まさか捺瀬も同じようにスラストに思いを寄せてくれているとはわからなかった。

言葉にしなければ分からない。

気持ちを伝えなければ伝わらない。

けれどスラストはそれを告げることはしないと判断した。


 スラストは立ち上がってマントを外し、椅子へと座る。

スッと目を閉じて、気持ちを整理する。

彼女を元の世界へと戻すために全力を尽くすと…。

愛するからこそ、彼女の人生を奪うことはできない。

でも希望だけは捨てていない。

思い合っていればいつかもう一度会えると信じて。

その時は思いを告げて、ずっと一緒にいられるように…そう願いつつ。

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