書庫にて 2

 「さて、本題に入りましょう。連絡はタワーの方から貰っておりますわ。…『リピート・クロニクル』…その本についてですね」


 テーブルの片隅に置かれている本。

見覚えのある表紙、題名。

私が綴った本の一冊です。


 「確認してもよろしいですか?」


 タナトスが旅の方に問いかけると、旅の方はコクリと頷かれました。

了承を得て、タナトスは本を手に取りました。私にも本の内容が見えるように、タナトスがページを捲っていきます。

パタンと閉じられた本を、タナトスは私の前に置きました。


 「やはり『リピート・クロニクル』ですね。この世界は本来あるべき『ライブラリー』へと改竄され、『クロニクル』もそれに伴って変化しました。それらを綴ったのは澪音ですから。この本は改竄される前の『ライブラリー』。役目を終えて、残っているはずがないんですよ」


 『タワーの方もデーターは残っていないと…』タナトスの言葉に付け加えるように、旅の方は告げられました。

そう、本来なら、役目を終えた…いえありえないはずの本が残っていたのでしょう?


 『その本と一緒にもう一冊…』そういって旅の方が出されたのは『リピート・クロニクル』とは表紙の色の違う本でした。

『ライブラリー』と『クロニクル』はそれぞれ表紙の色が違います。

管理しやすいように、間違えないようにと。

『リピート・クロニクル』は『ライブラリー』、旅の方が後から出された本は『クロニクル』ということになります。


 「これは‼…何故…」


 旅の方からタナトスがその本を受け取り、少しばかり顔をしかめてそう告げました。


 「…私の『クロニクル』ですね。記憶の一部と共にタナトスに渡したはずの…」

 「これでようやく謎がとけました。この件に関しては後でいいですね?澪音」

 「ええ、かまいません。申し訳ありませんが、こちらの『クロニクル』に関しては語ることが出来ません」


 『大丈夫です。大切な本が持ち主の元に戻ったと報告しますから』と旅の方は理解を示してくれました。

テーブルに置かれた『リピート・クロニクル』を手に持ち、そっとその表紙を撫でました。


 「役目を終え、ありえないはずの本ですが、特別に語りましょう。そしてどのように『ライブラリー』が改竄されたのかを」


 旅の方はゆっくり頷いて、お茶を一口飲まれました。


 「私はお茶のおかわりを用意してきます。少し席をはずしますね」

 「ありがとうございます。タナトス」


 パタンと音を立ててドアが閉まり、タナトスが退室していきました。

これはタナトスの心配りなんですの。

 さあ語りましょう。『リピート・クロニクル』を

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