書庫にて 1

 木製のテーブルにカチャリと音を立てて、ティーカップが二つ置かれました。


 「ハーブティーです。疲れが取れますよ」


 私と向かい合うように座る旅の方に告げたのは、ローブのフードを被ったタナトスですの。


 私の仕事場兼応接室はウッドハウスの一室で、仕事がしやすいように外の風景が見える窓は開けられて、レースのカーテンが付けられてます。

穏やかな時間が流れるように工夫されていますの。

けれど旅の方は落ち着かない様子で、私とタナトスの顔を交互に見ていますわ。

少しばかりタナトスへの視線は不審気味でしたけれど。

落ち着かないのも仕方ないのかもしれません。

いくら旅をしてきたとはいえ、危険もあったでしょうし、ゆっくりする時間もなかったのでしょう。

旅の方の顔には疲労の色が残り、目の下には隈もみられます。


 「まずはお茶を飲んで一息ついてください。自己紹介はそれからさせていただきますわ。このハーブティーは私が疲れているときに、タナトスが入れてくれるものなんですの。旅の疲れも和らぐと思いますわ」


 旅の方はその言葉にゆっくりとカップを持ち上げ、中身をコクリと飲まれました。

フウと一息つかれ、『おいしい』と呟かれました。

タナトスをちらりと見ると、小さく頷いてました。

表情には出さないものの、満足している時のタナトスですわ。

旅の方からも肩の力が抜け、幾分か落ち着かれたように見えます。


 窓から心地よい風が入り、私の方まで伸びた白百合色の髪を揺らし、旅の方の髪の毛を揺らしていきました。

『気持ちのいい風』と、暫くの間旅の方は目を閉じて安らいでいました。

私もタナトスも黙ったまま、その穏やかな時間を過ごします。

カップに口をつけ中身を飲めば、優しい味が口の中に広がりましたわ。


 「やはりタナトスのオリジナルブレンドのハーブティーはおいしいですわ」

 「当たり前です。自家製ハーブのブレンドですよ?それに此の家…いえ此の世界を造ってからずっと澪音に淹れてきたんですから。しかしパラヤの作る料理のほうがおいしいですよ」

 「あら、惚気られてしまいましたわ」


 私の言葉に旅の方がくすくすと笑っていられました。

しかし何かを思い出したようで、首を傾げられてます。


 「どうなさいました?」


 『この世界を造った?』と、不思議そうに聞かれました。


 「ええ、私…澪音のために、彼…タナトスが此の世界を造りました」


 私の願いを叶えるためにタナトスとのやり取りがあり、この世界は造られましたから。

タナトスも私の言葉に頷いていました。


「タワーの方に『クロニクル』と『ライブラリー』の話はお聞きになられたかと思います。私はその二つを綴り、語る役割を与えられました。それでもごく一部ですが。その役割のためにタナトスによって、ここは造られたのです」


 『けれど世界を造るのは…』旅の方がそう言いかけたのを、仕草で止めたのはタナトスでした。

その先の話は私が知らなくていいことなのです。

そう、私が知るのはごく一部。けれど仕事には差し支えはありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る