タワーにて 2

 「アヤ、キッチンにドーナツが届いてるから、休憩にしよう。このままだと効率悪くなるだけだし」

 「はーい」

 先手を打ってくるあたりお兄ちゃんらしいです。満面の笑顔がまぶしいですね。え?どこからドーナツが届いたか?それは知らないほうがいいとおもいます。私もこういうときは何も聞きませんから。

 「さてと…休憩だから元に戻すよ。本来ならこっちの状態でキミを迎えるべきなんだけどね。タイミングが悪かったからね」


 スイッチひとつで部屋が変わったのに、びっくりした?

まあマスターの作ったところですからなんでもありです。

仕事の時以外はソファーとテーブルがあるリビングのようになっていますから。

旅の途中でみたことがある?それはよかったです。

モノトーンなのは、お兄ちゃんのチョイスです。

いつも仕事しているわけではないですから。

仕事の時は巨大スクリーンで部屋を覆って、モニターやデーターなどがスクリーンに投影されるので、サイバー空間っぽくなるんです。

この普段の状態でも、異常察知だけはいつでも作動しています。

あ、すみません。

私たちが言葉で説明してしまいましたが、時空の旅人のあなたが分からない部分ありましたよね…。

大体はわかってもらえましたか。

それはよかったです。

それだけいろんな世界を回ってこられたんですね。

 

 「まあ、お茶を飲みながら説明する前に、自己紹介が遅くなったよね。ボクはテン。彼女はアヤ。ここはマスターから『タワー』と呼ばれてる。まあここを知っている人は少ないけどね」


 タワーなんて名前ですが、実際はこの部屋とキッチン、個人の私室ぐらいなのでマンションの部屋みたいですが。

タワーというのは名残です。

元はひとつの世界でしたが、その世界の終焉が迎え作り直されたためです。

唯一残ってるのが名前と仕事の時の空間です。


 「ま、ここが出来たきっかけがそういうものだったんだよ。さて、キミがここにたどり着いたのは…いや、君が時空を旅してる理由は、その手に持つ本だよね?」


 あなたの世界の古代遺跡から発掘されたものなんですね。

でも古代文字と照らし合わせても解読できなかった。

それであなたが調査のために、時空を旅していろんな世界を見てこられたんですね。

ここに辿りつけてよかったです。

その本は私たちが管理する世界の一部でしたから。


 「ボクたちの仕事はね、『ライブラリー』と『クロニクル』を全てデーターにして、管理するんだ。マスターが作った世界とそこに生きる人たちをデーターにして記録するのがね。アヤが『もし』で始まる質問をキミにしたよね?その『もし』は本当にある。アヤもいったようにね。ひとつの世界の歴史が『ライブラリー』となり、そこで生きる人たちの人生が『クロニクル』となる。キミが持つ本も『ライブラリー』だった」


 私たちはマスターからそういう役割を与えられているのです。

けれど私たちの役割を知るのは、ほんとに限られた人だけです。


 「そういう役割のために作られたのはボクとアヤだけだから。この姿もマスターによってね。白練色の髪にアシメントリーってあの人の趣味だし。アヤは白藍色の髪のショートカット。まあまだ仕事の途中だから、白のワイシャツとジーンズ。アヤは白のワンピースだけどね」


 マスターが仕事着としたものです。

普段は着替えますよ。

私たちは『クロニクル』を持たない存在です。

データー管理者と記録者。

ただそれだけですから


 ここまではご理解いただけましたか?

ここにはマスターの作り出した世界や住人の全てがあるのです。

故に一歩間違えば、『ライブラリー』や『クロニクル』を変えることや、消すことすら出来る場所なのです。

その本『リピート・クロニクル』は、いくつかの要因によって作り出されました。

本来なら形として残っているはずはないのですが…。


 「この本とそれにまつわる話は、彼女に聞いた方がいい。書庫にいる『ライブラリー』と『クロニクル』を綴る彼女に。元はこの本は彼女の元にあったからね」


 彼女のいる書庫の世界も私たちの管理する世界なのです。

このドアを彼女の世界と繋げました。

あなたが滞在している間は繋げておきますので、必要ならばいつでもきて下さい。


 「出来れば忙しくない時にしてよね。キミがそのドアをくぐったら、ボクたちはまた仕事だよ」


 すでに彼女には連絡を入れてあります。いってらっしゃいませ。

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