チェイジング・サーガ
彼岸 風桜
タワーにて 1
始まりは一冊の本からでした。
そうです、今あなたが持っているその本です。
『リピート・クロニクル』。
今は失われし本だったのですが…。
これもきっと何かの縁でしょう。
まあその本については後々。
さて、時空の旅人であるあなたに、『もし』で始まる質問をさせていただきますね。
『もし』あなたの暮らしている世界が『ライブラリー』という分類の本になっていたとしたら?
信じられますか?
あなたの人生が『クロニクル』という分類の本となり、今も綴られ続けているなんて考えられますか?
『もし』で始まる話なんて、夢物語に過ぎないと本当に言い切れますか?
時空を旅してきたあなたなら、もしかしたらと思うこともありませんか?
今話した『もし』で始まる世界を管理してるのが、この場所なんです。
本来なら詳しくお話する所なのですが…実は、今非常事態で手が離せない状態でして…
「アヤ‼時空の旅人の相手する暇あるなら、手を動かして。終わらないよ」
「動かしてるってば。テンお兄ちゃん」
「キミの話は後で聞くから、そこのソファーで今はおとなしくしてて。本来ならこの非常事態に来て欲しくなかったけど」
すみません。
本来ならきちんとお相手するべきなのですが、私たちの仕事はとても重要なものでして、こちらを優先せざるを得ないのです。
「あー‼もう‼データー関係はいじらないって約束したのに」
「しかたないよ。マスターがいじるのってそこぐらいしかないでしょ」
「わかってたけどね。それでも全部いじることないと思うんだけど。あの人、絶対聞いてないよね。フラッとやってきて、データーいじって『あとよろしく』ってありえないから。マスターじゃなかったら出禁だよ、出禁。…っとこれでデーター整理半分ってとこか」
いつもより低い声で呟くテンお兄ちゃんの目が据わっています。
マスターに対しての文句も忘れていませんし。
え?ここに二人だけか?
正確には違います。
けれど常にここにいるのは私とテンお兄ちゃんだけです。
マスターからデーター管理などを任されているので。
マスターやデーターに関しては、『ライブラリー』や『クロニクル』を説明する時に。
「ッチ…この忙しいときに、メール送ってくるのは誰かな~?って辰樹か…」
辰樹さんというのは、テンお兄ちゃんのメール友達です。
結構こまめに連絡しあっているみたいなんですが…
「……ボクにケンカ売ってるよね。いくら彼女が出来たからっていちいち惚気メール送って来る必要ないよね。この一通のメールに何回彼女がかわいいっていれてるのさ。フフフ…いい度胸だね。たっぷりと返信メールに恨み言書いてあげるよ」
あ…お兄ちゃん珈琲を飲み終えたカップを放り投げました。
忙しいのにメールを無視しないのはいいこと?
確かにそうですね。
お兄ちゃんマメですから。
でも怒らせたら…考えたら恐ろしいです。
返信メールを書いてるお兄ちゃんの笑顔が怖いので、私はお茶の準備でも…
目の笑っていない状態の美形の笑顔がコワイ?
同感です。
私もきちんと作業しないと、あの笑顔で怒られてしまいます。
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