第4話
***
それから二週間後。地元新聞の片隅に、蛇塚から古代の銅鏡が発掘される! と言う見出しで記事が載せられた。
「発見者は以前蛇塚に閉じ込められた少年A(十七才)」
「平坂大学民俗学科民俗学助教授、八橋
「なお、少年Aは『初めはコンパクトミラーだと思っていたが、気になってきて大学に持ち込んだ』と発現している」
オカルト研究部員三人は図書館の机に顔を寄せ合って、紙面を読んだ。
「発掘は昼におこなわれるので、オレたちが学校の時は見に行けないのが残念だ」
「せやけど、土日もやるんやろ? そんときに見学させてもらったらええんちゃう?」
「もし蛇塚から本当に遺跡が発掘されたらロマンですね!」
「ほう! 白山くんはロマンという意味をしっかり理解しているな!」
「まぁ、古代の遺跡やから、ロマンなんやろうけど……」
銅鏡自体は全く別の場所、多分平坂高校の裏の林から出てきているのだから嘘であることには変わりない。
「以前に俺が引き込まれたときに調べたのは、古い人骨だけだったからな。新たな発見が期待できるぞ」
「期待しとるのは、概ね満夜と八橋先生だけやな」
「平坂大学の民俗学科の教授も大学も期待しているぞ」
「大嘘やてばれんように気をつけなアカンで。ばれたらえらい騒ぎになる」
「なんだかな! オレはそこら辺の雀以下と思っていた鳥が鷹に変わるような気がするのだ!」
「わけがわからんたとえやな」
「要するに、大化けするって事ですね! 本当に発掘されたら、万々歳です!」
「そのとおりだ、白山くん! まだまだ部員になって日が浅いのによく理解してくれているな!」
「半年経ってますから! 芦屋先輩」
二人は会話に白熱してきて声が大きくなっていった。
「しーっ、声が大きいで。それで、満夜はこれからどないする計画なんや?」
「うむ。平坂町に関わる秘密を全て解いていきたいと思っている。平坂町に点在する白蛇の逸話。これにはいざなぎ神社の三つ
「わしの封印された体だ!」
すでに隠れるということ自体放棄した鵺が満夜の頭の上からみんなを見下ろした。
つかつかつかつか!
ローヒールの音が近づいてきて、メガネを掛けた司書が声を低めた声を掛けてきた。
「あなたたち、動物を持ち込んではいけません」
ぽいっと図書館から追い出された三人は、仕方なく公園に向かった。
そろそろ肌寒くなってきて風が冷たい。鵺のもふもふがありがたい季節になった。十月が終わり、もうすぐ文化祭が来る。文化祭が来たら、その準備で毎日が忙しくなるだろう。それまでに、蛇塚から千曳の岩が見つかれば、良いのだが……。
そんなふうに満夜は考えながら、千本鳥居のことにも思いをはせた。
「八束の剣の捜索は決して外せない。しかし、勾玉が戻ってくるまでずいぶん時間があるしな……」
「やったら、白蛇の件から調査してみたらどうやろか?」
「そうだな。オレたちに今できることは残念だがそういった些末な調査だけだ。千曳の岩はいったん、八橋先生に任せるしかない」
「満夜にしてはえらい素直やな」
「オレは考えているのだ。千曳の岩の封印を解かせようとした存在がなぜ美虹くんに化けたのか……」
「白山さんにも化けたな」
「わたしたちに関係あると言うことですか?」
「しかも、美虹くんや白山くんの特徴をよく掴んでいた」
「そういえばそうやな」
「もしかすると、あの化け物は白山くんたちと因縁があるのやもしれん」
「えー!?」
菊瑠が驚いて叫んだ。
「わたしたち姉妹にですかぁ?」
「推測だが、千曳の岩はいざなみを封じるためにいざなぎが投げた岩だ。いざなみと縁があると思われる。蛇塚に現れた化け物は白山くんの姿をしていたし、この前の化け物は美虹くんだった。二人ともいざなみ教の身内じゃないか。これで全く関係ないとは言いがたい。いざなみ教に何かある」
「もしかして、いざなみ教の神様がいざなみ様だからですか?」
「そうだ。おまえ達姉妹はいわば、いざなみの手先でもあるのだ!」
「手先!?」
エーッと声を上げて菊瑠がまた驚いた。
「芦屋先輩はわたしのことを疑ってるんですか?」
「疑っていると言うよりも利用しようと思っている。だが、残念なのは、諸君には自覚がないと言うことだ。そこで、拝み屋として自分の体にいざなみを下ろして託宣をする美虹くんが必要になるのだが」
「じゃあ、蛇塚やのうて白山さんちにいこか」
「それは諸君に任せた。オレは蛇塚へいき、様子を見てくる」
凜理はそこまで聞いて、にやりと笑った。
「ははーん、満夜は美虹さんが苦手なんやな。直接顔を合わせるのがいやなんやな」
「そ、そういうわけではない」
あからさまに満夜がうろたえた。
「オレの先祖がいざなぎだから、いざなみの神経を逆なでしてしまうのではないかと危惧しているのだ」
「逆なでどころか、えらい気に入ってるやんか。セーターまでもろたやん」
「重いッ! 重いのだ! それはいざなぎも閉口して別れるに決まっている!」
「セーターくらいで何もそこまで」
「おまえはセーターがどういうものかしらんのだ! 編み目一つ一つに術を掛けて、強力な呪術を作り上げた集大成なのだぞ。何を願って編み込んだかわからないではないか! オレの命を狙っているやもしれん!」
「大袈裟やなぁ……好きな人が恋人に送るのは当たり前やんか」
「恋人ではなーーーい!」
「そうやな。まだやけど。満夜も本当はまんざらでもないんちゃうの」
凜理が冷やかした。
「お姉ちゃん、夜も昼も寝る間も惜しんで編んでたんです。一回でも良いから着てあげてください〜」
「いやだ! それにおまえ達はしらんようだがな、編み目には髪の毛も編まれていたのだ!」
「たまたまやないのん?」
「お姉ちゃん、髪が長いから……」
「よっく聞け! 古来、自分自身の体の一部を混ぜた品物を相手に送るというまじないがある。それは恐ろしい呪術で、相手の意思とは関係なく自分の思い通りにするというものなのだ!」
「そんなおまじないがあるんや」
「初めて聞きました」
「それはおまえ達が研究熱心ではないからだ! お、公園に着いたぞ。オレは八橋先生の応援に行ってくる!」
満夜は二人が引き留めるのも聞かず、蛇塚のほうへ走って行ってしまった。
「はぁ……満夜は恋愛にうといんやから」
「薙野先輩は凄く男子に人気があるみたいですけど、恋愛のエキスパートなんですか?」
「アホなこといわんといて。満夜と一緒におってもてるわけあらへんやんか。それより、白山さんの方が可愛らしから人気あるんやないの?」
それを聞いた菊瑠がしょんぼりと肩を落とす。
「わたしの家、拝み屋さんだからみんな怖がって、あんまり話をしてくれないんです。でも! オカルト研究部に入ってからは学校に行くのも辛くなくなりましたよ!」
「そういや、最近学校で会うこと多いもんな。でもそんなに怖がることあらへんのに」
「前はお母さん、今はお姉ちゃんの託宣が、すっごくあたるんです。それで入れ込んだ信者さんがたくさん寄進してくれたりして……ああやって住み込みをしてわたしたちのお世話をしてくれるから、家族とバラバラになった同級生が、ちょっと……」
最後のほうは菊瑠も言葉を濁した。
「大変やなぁ……いらんていえんの?」
「言ったんですけど、住み着いちゃうんですよね」
「かえらへんのや」
「一度お姉ちゃんが帰ってって言ったんですけど、信者さんたち泣き叫んじゃって」
「こわ」
「そうなんですよねぇ……」
「狂信的やな」
「別に何にも命令したりはしてないんですけどね……家に帰ってあげて家族と暮らしてほしいです」
やけに重たい話になってしまったと凜理が後悔した矢先、白山宅の前にたたずんでいた美虹が手を振ってきた。
「あ、来た来た! いざなみ様の話でしょ!」
なんでしっとるんや……と心の中で思う凜理だった。
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