13 平坂高校の謎に迫れ!?
第1話
秋雨が降りしきる、退屈な放課後。
雨が洗い流してくれたかのように心なしか涼しくなって、あのサウナのような暑さは名残も感じられない。
外気温はそれほど涼しいのに、百人乗っても潰れないコンテナ張りの用具室の中は、むしろ人が密集して暑いくらいだ。
「ええかげん用具室はやめとこ?」
「何を言う! 秘密会議に密室はつきものだぞ」
「でも、せまいです」
「このような場所で何を話すというのだ」
「キサマが見えないと偽ってモロバレだったからではないか! これでは図書館にも行くことができん!」
「何を抜かすか! わしの神通力は完璧だったはずなのだ。おまえが勝手に飛翔輪を祠に納めてしまうまでは」
三人と一匹でいっぱいいっぱいになってしまう用具室では、個人領域すら全然保てない。
それでイライラとしてくるのだろうか、さっきから凜理は虫の居所が悪いようだ。
「ちょい静かにしてもらえんやろか。新しい呪符も効き目がないみたいやな」
「とりあえず健脚の呪符を這っているだけだからな」
「密室の呪符やないんかい!」
「それは、いずれ会得してみせる」
「わしが教えぬぞ」
「なんだとおぉ!?」
「狭いから音も響きます〜」
菊瑠が両手で耳を押さえた。
「それでなんのためにうちらここにおるの」
集まった理由の核心を、凜理が突いた。
「む。実はな、以前オレが六芒星の話をしたことに関係があるのだ」
「そういや、そんな話をしてたなぁ」
「うむ。それで、全く手つかずの場所があるのに気付いているか。我々の目と鼻の先にある、この平坂高校だ!」
「そういえば、まだここのことを調べてなかったですね」
「わしの体のありかにしては何も感じぬぞ」
「オレも平坂高校のことはくまなく調べたことがあるが、不審なものは何もない。だが!」
「だが?」
「見落としているものが必ずあるはずだと確信している!」
「それはなんなん?」
凜理が興味深そうに訊ねた。
「わからん」
「わからんのかい!」
「この辺りに昔何があったかを調べる必要がある。うちの学校の創建はいつか覚えているか?」
「うーん、ようしらんけど、百年はたっとるんやないの?」
「では百年前のことを調べれば、何かわかるかもしれん。潰された祠があるとか、何かの石碑があるとか」
「そやな。手分けして調べよか」
「わかりました」
三人はそれで今日の会合を解散とした。
「何から調べるとか検討はついとるん?」
用具室から出ていざなぎ神社に向かう途中、満夜に凜理が訊ねた。
「ううむ。目星は付いておらんが、以前、白山くんが図書館で見つけた平坂村郷土史に何か書かれているかもしれんとは思っている。後は古地図を調べる」
「目星ついとるやん」
「しかし、確信ではない。手探り状態だというのは変わらん」
「あの辺りはわしが生きていた頃は湖沼地帯であったぞ。沼地が広がっておった」
二人の会話に鵺が割って入った。
「なんや、鵺はここら辺のことを覚えとるのん?」
「覚えておるとも」
「と言ってもだな、貴様が言っているのは千年以上前の話だぞ」
「しかし、何もわからぬよりもましだろう」
「それはそうだが……」
「とりあえず、うちは土蔵の文献を調べてみる。竹子おばあちゃんもなんやしっとるかもしれんし」
「頼むぞ」
二人は道を二手に分かれた。
***
「ただいま」
凜理が神社の裏手にある玄関から家に上がると、真っ先に竹子を探した。
「竹子おばあちゃんどこ?」
「おばあちゃんなら、町にお買い物に出てるよ」
美千代に言われて、凜理はがっかりした。
「じゃあ、お母さん、土蔵の鍵貸してくれへん?」
「なんで? お父さんに頼みなさい」
「はーい」
凜理は部屋できがえて神社の社務所へ向かった。
「お父さん、ただいま」
「おかえり、凜理、何か用か?」
「うん。お父さん、土蔵の鍵貸してくれへん?」
「うん? どうしてだ?」
「調べ物があるん。昔の平坂町のこと書いてある文献しらへん?」
「平坂町のこと? 社会か何かの宿題か?」
「そういうことやないけど……満夜と一緒に調べとるんや」
「満夜くんとかぁ……また、オカルト何たらに関係してるのか?」
「まぁ、ざっくり言うとそうやな……」
「ふむ……土蔵にはそんな文献はないぞ。全部図書館に寄贈したからな」
「寄贈したん?」
「うちが持っていても虫食いが酷くなるだけだからな」
凜理は振り出しに戻ったとばかりに肩を落とした。
「いったい、平坂町の何を調べるんだ?」
「平坂高校のあった場所が昔はなんだったか知りたいんや」
「へぇ。平坂町の歴史を調べているのか」
「まぁ、そうやな」
「とにかく、うちには文献はないから、図書館に行って司書の先生に平坂町の歴史を調べているとかなんとか言って文献を調べてもらったらどうだ?」
「そうするわ。ありがとう、お父さん」
「ん」
嵩はそう言って、事務作業に戻った。
「お父さんにもわからんのかぁ……竹子おばあちゃんもおらへんし、図書館に行くしかあらへんか」
早速自室に行き、ノートやらを突っ込んだトートバッグを持って、図書館へ出掛けていった。
道すがら、満夜に電話を掛ける。
「満夜?」
『どうした』
「今、図書館に向かってるんやけど、満夜もいかへん?」
『おお、実は今図書館にいるのだ。いつもの席で待っているぞ。ところで土蔵で文献は見つかったのか?』
「それなんやけど、お父さんが文献は全部図書館に寄贈したって言うてた」
『なんと……それでは司書に調べさせねばならんな』
「満夜、調べといてくれる?」
『うむ。早く図書館に来るのだ。それから白山くんにも連絡を入れてくれ』
「わかった」
凜理はすぐに白山宅に電話をした。
『はーい』
電話口にでたのがすぐに菊瑠だとわかる。
「あ、白山さん? 薙野やけど。今から図書館に来れる?」
『オカルト研究部の部会ですか?』
「平坂町の過去を調べるために図書館に集まることになったんや」
『わかりました! ダッシュで向かいます!』
「こけんようにね」
走るとなぜかこけそうになる菊瑠のことを思い出して注意した。
『わかりました! 気をつけます! 薙野先輩も転ばないように気をつけてください』
うちはこけへんけどな……と思いつつ電話を切った。
***
三人がそろった頃には満夜はすでに古地図をにらみつけて椅子に座っていた。
「他は田んぼや住宅が建っているのに、なぜかこの場所だけ更地のままだ」
「いつ?」
「とりあえず、百年前と百五十年前の地図だ。代わり映えしてない。それまで何も建っていなかったのだろうか……」
「江戸時代くらいのを調べてみたら?」
「そうだな、明治時代くらいではわからんのだろう」
三人は早速十年単位で二百五十年前の古地図を取り出した。
「おお、やっと屋敷が建っているのを見つけたぞ」
「大きな家やなぁ……小作人の家とかとちゃうで」
「庄屋か何かだろう」
「もしかしたら武家屋敷かもしれないですよ」
「それは郷土史にも載っているかもしれん」
すでに持ってきていた郷土史を満夜がパラパラとめくる。
「平坂村の言い伝えの一つに忌み地とかいうのがあるようだ」
「「忌み地?」」
凜理と菊瑠が声をそろえて驚いた。
忌み地なんて怪談でしか聞いたことがない。そんなものがあるなんて作り話みたいなものだ。
「意外そうな顔だな。しかし、郷土史にはそれしか書いていない。それくらいにまがまがしいものだったに違いない」
満夜の顔つきがキリッと引き締まった。
「これこそ、オカルト研究部にふさわしい研究対象ではないか!」
「しーっ」
周りから注意されて、満夜は声のトーンを音した。
「忌み地とわかったからには、どうしてそう言われるようになったかを調べる番だ」
「どうやって調べるのん?」
「それはおまえの家の文献に何かあるかもしれん。手分けして調べよう」
三人は司書のところに行っていざなぎ神社から寄贈された文献のある場所を訊ねた。
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