第3話
「なぁ、いくら自分の思い通りにならんかて鵺の存在を否定せんでもええやん」
「否定はしていない」
「だったらなんやの」
「このまま銅鏡と話をしていたら、オレの頭がおかしくなったと思われる」
「なんや、わかってるやないの。でもいつものことやから、心配せんでもスルーされるんやないのん?」
「むう」
心外だったらしく、満夜は気難しそうに顔をしかめた。
「とにかく。俺は家に帰って、鵺の力がなんなのか、試してみる。そしておまえは週末の合宿に備えるのだ」
「そういえば、白山さんには伝えへんの?」
「ここに来る前に一年の教室を当たったが、白山くんはいなかったのだ」
「足怪我しとったし、まだ休んでるんやろか」
「とにかく、今回は白山くん抜きで実験するしかないな」
二人はのそのそ用具室から出ていった。
***
土曜日の夕方、再び、ボストンバッグを担いだ満夜は颯爽と千本鳥居へ向かっていた。
道の関係でどうしても公園の前を通るのだが、視線の先で手を大きく振っている人影が見えてきた。
「なんだ?」
「芦屋先ぱーい」
同じくボストンバッグを持った菊瑠が公園の前に立っていたのだ。
「なぜ、今日合宿があることを知っていたのだ。学校で白山くんを捜したが見つからなくて伝えてなかったのに」
「実は先週の土曜日の合宿がうまくいかなかったから、今週こそは合宿をするのかと思いまして、待ってました」
その言葉を聞いて、図らずも満夜は胸にぐっときて感動してしまった。
「なんと志が高いのだ。オレは感動したぞ!」
「先週は薙野先輩が大変なことになって、結局解散してしまいましたし……わたしも足の調子が悪くて先週は学校を休みがちになってましたから」
「もう足の調子はいいのか?」
「はい、すっかり」
菊瑠が先週包帯を巻いていたほうの、すらりと長くて綺麗な足を見せた。
「傷一つないことは良いことだ」
女の子の綺麗な足を見ても鈍い満夜にはピンとこないようだった。見せたほうの菊瑠も他意はないらしく、ニコニコしながら足を引っ込めた。
「何やってんの」
その様子を後ろからついてきて見ていた凜理が、呆れたように声を掛けてきた。
「いつの間に!」
「満夜が家を出たときからずっと後ろ歩いとったんやけど。あんた、全然気付かんのやもん」
「音もなく忍び寄るとは、さすがねこむすめ!」
「気付かんかっただけやろ」
凜理は満夜をすっと抜いて、菊瑠の腕を取った。
「さ、行こ。白山さん、満夜のいうこと真に受けたらアカンよ」
「は、はい」
「オレを無視するな」
二人の後ろを満夜は慌てて追いかけた。
夕暮れの千本鳥居はどことなく薄気味悪い。夕闇に紛れて灰色にトーンを落とした朱色の鳥居がぼんやりと浮かんでいる。
地面などはすっかり色を失って、黒く盛り上がっているように見える。
心なしかひんやりとする風が吹いている。
満夜は首筋に寒気がして手でうなじを擦った。
「ぞくぞくするな……」
それを聞いた凜理がにやりとする。
「恐いのん?」
「ふふふふふふふふ……」
「なんやの……?」
満夜の武器な笑いに気温よりもぞっとして凜理が聞き返した。
「これぞ、怪異が起こる
単純に寒いだけだったらしく、満夜は盛大にくしゃみをした。
「確かに寒いわ……寝袋持ってきたけど夜中になったら家に帰ったほうがええような気がするなぁ」
凜理が両腕をさすった。
「そんなに寒いですか?」
菊瑠がくしゅんとくしゃみをする。
「もしかしたら、満夜と菊瑠って気があうんとちゃうん……」
今更感もあるが、凜理はくしゃみをしあっている二人を疑わしげな目で見合った。
「足を見せてたし……」
「あ、傷が治ったのを見せたんです。凜理先輩も見ますか?」
そう言って菊瑠がすらりと長くて白い足を見せた。
「なんや……天然で見せただけか」
心なしかほっとする凜理だった。
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