5 再び! 千本鳥居の謎を解け!

第1話

 田中幸子は酷い脱水症状を起こしていたが、命に別状はなかった。蛇塚の中にあった大量の骨は今まで行方不明になった人たちの物だったそうだ。

 ただ不思議なのは、塚への入り口は厳重に封鎖されていて、中に入るのは不可能なはずだということだった。

 警察署長と区役所職員は頭をひねりながらも、これまで以上に頑丈な扉を付けると言うことで周囲の住民を安心させた。




「納得がいかん……」


 いつもの用具室の中で満夜が恨みがましそうにつぶやいた。

 引き戸には新たに作られた密室の呪文が書かれた呪符が貼り付けられている。


「でも田中さんが助かって良かったやん」

「しかし、おまえと互角に戦える謎の生物がいることはわかった」

「謎の生物なんやろか……得体が知れない感じやったけど」

「納得がいかんのは我が怨霊の力だ」


 初めて聞く単語に凜理は首をかしげて聞き返す。


「怨霊の力?」

「そうだ。オレはあの銅鏡に求められるままに血を与えて力を得たはずなのだ。それなのに、発現したのはしけた稲妻だけだった」

「でもそのおかげで満夜は白い物から身を守れたんやんか」

「むぅ……その通りだが……もうちょっと凄い力だと思っていたのだ」


 珍しく満夜が正直にのたまった。本当に期待していたらしく、こころなしか表情が暗い。


「それにしてもどうやってそんな物を手に入れることになったん?」

「これだ」


 満夜はポケットの銅鏡を取りだして凜理に見せた。


「この銅鏡から崇徳院の怨霊が出てきてオレに力を与えたはずなんだ」

「崇徳院の怨霊?」

「そうだ」

「ほんまに崇徳院の怨霊やったん?」

「……確かにそうだな。はっきりとは名乗らなかった」


 思い返してみれば、銅鏡は一言も自分のことを崇徳院とは言ってない。


「だ、だまされた!!」


 ガクッと床に手をついて、満夜はガクガクと体を震わせた。あまりのショックに口もきけないようだった。


「そういえば、あのとき、うちは白山さんに呼びかけられて蛇塚についていったん。それやのに、突然白山さんが蛇になってんで」

「……そうなのか……?」


 ぷるぷる震えていた満夜が顔を上げた。


「しかし、白山くんはオレと一緒にいたぞ」

「そうなんや。だからうちびっくりして」


 ふぎゃっとか言ったらしい。


「では、あの得体の知れない白い物は人にも化けるのか……」


 身代わり観音に願い事をするとかなう。その代わり名前を呼ばれて行方不明になるらしい。その謎が今解けた。


「そうか、名前を呼んでいたのはあの白い物で行方不明になったのは蛇塚に引きずり込まれたからなのだ!」

 ふ、はははははは——っ!!

「我ながら名推理なのだ」

「こんだけ順序よく起こったら誰でもわかるんやないの」

「しかし、おまえはまんまと偽白山くんについて行き、蛇塚に引きずり込まれるところだったではないか!」

「そうやけど……でも願い事をしたのは満夜なのに、なんでうちが呼ばれたん?」

「それは……」

「なんやの」

「連名にしたからだっ」


 またも偉そうに満夜が不敵に笑い始めた。


「連名だと効果抜群だったな!」

「連名なんかにすな! このドアホ!」


 すぱーんと凜理の手の甲が満夜の胸を叩いた。


「ところで」


 いきなり真顔で満夜が話題を変えた。


「今週末、今度こそ千本鳥居に集まって合宿だ!」

「合宿って何すんのん?」

「呪歌を実験する」

「じゅか」

「そうだ。通りゃんせをする」

「それって子供ンときにやった遊びやないの。なんでそれがじゅかやのん?」

「おまえ、ひらがなでじゅかとか言ってるだろ? 呪歌とはまじないの歌と書いて、呪歌なのだ!」

「そうなん。でもそれと千本鳥居がなんか関係あるのん?」

「ふふ……ふふふふふ……実験だ。おまえのばっちゃんはこの歌を千本鳥居で歌ってはならないと言っていたのだ。では歌ってみせよう! 何かが起こるはずだ。その何かを解明するのが、我らオカルト研究部の宿命なのだ!」

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