第6話
「はぁはぁ……」
何度か走り、ようやく公園の前にたどり着いた満夜と菊瑠は、公園の中に入り、辺りを見回した。
「白山くん、凜理をどこで見かけたのだ」
「確か、あっちの方です」
菊瑠が芝生の向こうを指さした。そちらは蛇塚のある方角だった。小高い山が見える。その麓に蛇塚はある。
平坂公園は今や紺色に染まりつつあり、数メートルでも離れれば人の顔も判別できないくらいだ。
視線の先にある、身代わり観音堂が建つ山も次第に黒々と空に浮かび上がっている。
「行くぞ……何が潜んでいるかわからないからな」
と言いつつ、ボストンバッグの中から懐中電灯を取り出した。
「白山くん、これを使え」
「いいんですか? 芦屋先輩が何も見えないんじゃないですか?」
すると、満夜が不敵に笑う。
「ふふふふ。やはり怨霊の力なのだろう、暗闇でも目が利くようになっているようだ。今のオレならこの道に落ちている針さえもすぐに見つけることができる!」
「針が落ちてるんですか?」
「たとえだ、真に受けるんじゃない」
どうやら菊瑠もボケ担当だったようで、満夜はなれないツッコミを引き受けて、菊瑠の言葉を訂正した。
「芦屋先輩、一体どこに行くんですか?」
菊瑠が満夜の後を追いながら訊ねてきたとき——。
遠くの方からどこからどう聞いても猫のけんかとしか思えない声が聞こえてきた。
「ふぎゃおおおうう!」
荒れ放題の植木の影から飛び出してみると、二人の目の前に白い五匹の白蛇と頭に耳をはやした凜理が戦っていた。というか睨み合っていた。
「ナメクジがいたら完璧だな! 猫はカエルじゃないが!」
と言い様、満夜は植木の影から飛び出して、今にも凜理に襲いかかりそうな五匹の蛇に向かっていった。
「満夜!」
「助けに来たぞ!!」
「満夜は下がってるにゃあ!」
「我が部員の危機に引き下がることなどできるか」
非常に頼もしいことをいいながら、満夜はあっという間に五匹の蛇に絡みつかれてしまった。
「な、なんだこれは!?」
今まで蛇だと思っていた白い長いものが、実は得体の知れない物だと知って、満夜は驚愕した。
「満夜を離すにゃあ!」
——ふにゃおおうう!!
凜理が爪を立てて、飛びかかってきた。
凜理の牙が白い物に突き立てられた。しかし、白い物は動じる様子もない。
「み、身動きが取れない……!」
満夜は体を大きく捩って、白い物から逃れようとしたが、ずるずると満夜を蛇塚へと引きずっていくではないか!
「くっ、このままでは……」
蛇塚まであと数十センチ、暗い洞がぽっかりと闇の中に空いている。
あっという間にその中に引きずり込まれて、さらに白い物が絡まってぎゅうぎゅうと満夜を締め付けた。
絶体絶命と満夜が思ったその瞬間。
バチバチバチ!
火の粉のような電流が、満夜の手のひらに走った。
「な、なんだと……?」
電流はいつしか小さな稲妻になって、手のひらで舞っている。
満夜はためらいもなく、白い物をぎゅっと握りしめた。
いきなり白い物がのたうち回り、満夜から離れていく。
「満夜!」
「芦屋先輩!」
遠くから二人の呼び声がした。
気付けば、すっぽりと体ごと洞の中に入り込んでいるではないか。慌てて明るいほうを振り返ると、懐中電灯で照らしているのか、やたら眩しい。
「懐中電灯などなくても見える……」
満夜はうっすらと見える塚の中を見回した。中には蛇など一匹もいなかったが、人が倒れているのはわかった。
側に駆け寄ると、平坂高校の女子の制服を着ている。
「君、君!」
胸元に耳を近づけたら、弱々しいけれど脈打っている。
「もしや……行方不明になった田中幸子? 蛇塚の中にいたとは……」
そうとわかれば、幸子を連れて蛇塚を出るしかない。
「オレはここだ!」
明るいほうへ幸子を担いだまま近づくと、ぽっかりと空いていると思った洞には鉄格子が嵌まっていた。
「満夜! 大丈夫なん!?」
「オレは大丈夫だが、田中幸子は虫の息だ」
「救急車呼ぶね!」
「おう」
出口のすぐ側に幸子を寝かせて、自分は奥へと進んだ。
蛇塚は意外に広かった。奥へ進むにつれて、足下で軽い乾いた木の枝が折れるような、パキッと言う音が響いた。
「なんだ?」
満夜が不思議に思って拾い上げてみると、それは白い骨だった。
「なんと……今までの犠牲者の骨なのか!?」
気付けば足下には無数の骨が——!!
しかし、あれほど満夜と凜理を脅かしていた白い物は跡形もなくなっていたのだった。
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