第3話
時間は遡って——。
学校で満夜と別れた凜理は、素直に合宿の準備をするため家に帰った。
帰った途端、竹子がやってきて凜理に渋い顔をしてみせる。
「凜理、あんた、満夜の家に泊まりに行くそうやないの。ほんまに泊まりに行くだけか?」
「え!? そ、そうやで。なんでやの?」
竹子に図星をつかれて、しどろもどろに答えた。
「昨日、満夜くんがうちに来て千本鳥居の呪歌のことを聞いたやろ。あやし思うてな」
「べ、別に怪しくなんてないよ〜」
「そうか? やけど身代わり観音さんにお願い事したんやろ。言い伝えによると、お願い事をした人はみんなよくわからないものに名前を呼ばれるらしいで。それに返事をしてしもうたら連れていかれるんやって」
「そうなの……?」
それを聞いて、凜理は少し焦る。満夜は得体の知れない物と遭遇したと言っていた。幸いにも名前は呼ばれなかったのが、九死に一生を得たということになるのだろうか。
それでも、返事をしないように注意しなくてはいけない。
竹子が見ている前で、凜理はボストンバッグに寝袋や防寒具を詰めていく。
「満夜くんの家に行くのに、なんで寝袋がいるのん?」
どきっ!
凜理の心臓が飛び上がった。
「そ、それは……ど、土蔵や。そう、土蔵でオカルト研究をするていうとったで」
「土蔵で……そういえば芦屋の道春さんが封印しとったもんをどうも満夜が開けてしもうたかもしれんてぼやいとったで?」
「どういうこと?」
「あんたも覚えとき。うちの家系は芦屋家が直系になっとる。そのご先祖さんは呪術師で有名なひとやったらしいんや。封印したもんはどうも天皇家が関わっとった。天皇家に災いをもたらすいうて封じたもんらしい。中身は道春さんしかしらんいうとったで」
「災い?」
「そうや。そのせいで都の人たちがぎょうさん死んだらしいで? それを治めるためにご先祖さんが封じたんや」
満夜が最終兵器とか言っていた銅鏡はもしかしたら満夜の手には負えないものなのかも知れない。
満夜にこの話をしたら、反対に喜ぶだろう。その声が頭の中に聞こえてくるようだ。
どうにかもう一度封印したほうがいいのではないだろうか。
「とにかく、満夜くんから銅鏡を返してもろうて、道春さんにもう一度封印してもらわなアカンやろね」
時計を見ると、もう三時を過ぎている。
凜理は慌ててボストンバッグを担いだ。
「竹子おばあちゃん、そういうわけやから、満夜の家に行ってくるね!」
「気ぃつけや」
「わかった!」
凜理は急いで家を出て、千本鳥居を目指した。
凜理が早足で公園の横を通ったとき、声を掛けられた。
「薙野先輩!」
振り向くと、白山菊瑠だった。
「あ、白山さん。白山さんも今から千本鳥居?」
「そうですぅ」
相変わらず、菊瑠はカワイイ。こんな可愛い女の子が、満夜の怪しいオカルト研究部に興味を持つのは奇跡のような話だ。もしかすると中身が凄く変わった子なのかもしれない。
「でも、手ぶらなん?」
「あ、公園に置いてます。ちょうどベンチに座ってたら薙野先輩を見かけたから。とってきますね」
「じゃあ、付き合うよ」
二人は平坂公園に入っていった。
***
「遅い……」
満夜は腕を組んで、通りの向こうに目をこらした。もうすぐ夕方にさしかかる。空も少しずつ赤みが増してきた。黄昏時である。
凜理を待っていたがいつまで経っても現れない。しびれを切らしていっそのこと菊瑠と呪歌を唱えようかと迷いもしたが、部員の要である凜理抜きに呪歌は唱えられない。
「白山くんは凜理を見かけたりしなかったのか?」
もしかしたらと思い訊ねてみた。
「そういえば、公園の前ですれ違いましたよ」
「平坂公園か!」
「公園の中に入っていきましたよ」
「ふむ……これは迎えに行ってやらねばいけないかもしれないな。公園で足止めを食らっているか、自分の家にいるかだ。む、そうだ。電話をすればいいのだった」
ようやく携帯電話の存在を思い出したかのように、凜理に電話を掛けてみた。
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