第7話

「満夜と遊ぶとすぐそういう遊びになるんやもん、普通の遊びは全然できへんかったよ」

「そんならいいんよ。あそこでな、通りゃんせを歌って遊んだらアカンのよ」

「通りゃんせ? そんなん初めて聞いたわ」

「そりゃいわんよ。だって、言うたら子供はすぐ遊びよるし」


 確かにそうだと言わんばかりに、満夜は頷いた。もし自分が言われていたら、早速、通りゃんせをして遊んでいただろう。


「ほら、満夜くんの目が輝いとるよ」

「満夜……」


 そんな満夜を呆れた様子で四つの瞳が見つめた。


「そっ、そんな目でオレを見るな! 禁忌と言われるものに挑戦するのは浪漫ではないか!」

「竹子おばあちゃん、満夜は放っておいてや。なんで通りゃんせをしたらアカンの?」

「神隠しに遭うと言われとる」

「神隠しだと!」

「そうや。千本鳥居へ遊びに行って帰ってきいへん子供は大概通りゃんせをしよったらしい」

「それは初耳だ! 是非、通りゃんせをせねば!」

「ばかか、あんたは!」


 すぱこーんと満夜の後頭部に、凜理がツッコミを入れる。


「アカン言われることにはなんや意味があるんやないの」

「それを解き明かすのが、オレの任務! 身代わり観音でもそれを証明してみせる!」


 それを聞いた竹子の目が大きくなった。


「なんやの、満夜くん、人食い観音いってきたん」

「そうだ、そこで部員増員を願ってきた」


 竹子が頭を抱えて、ため息をついた。


「凜理、あんだけあかんいうたやないの」


 凜理はしょぼくれて、竹子を上目遣いで見やる。


「だって、もうあんときには行ってしまった後やってん」

「満夜くん、お祓いしとかなアカンのやないか。うちがご祈祷したるよ」

「祈祷……しかし、それをしてしまったら怪異と遭遇できん。怪異と遭遇できんということは解明することもできんと言うことだ。されば、オレに祈祷など必要なし!」

「自信満々に言うてるけど、あとで後悔することになっても知らへんよ」


 竹子がまた深いため息をついた。


「竹子おばあちゃん、他にはないのん?」

「千本鳥居に? そうやねぇ、それ以外は特にあらへん。だいたい、この町にはいろいろ言い伝えがあるねん。それなのに、宅地にするいうて自治体が山やら森を削ってしもうたからなぁ……」

「身代わり観音も?」

「そうや。あれは、観音さんが身代わりになるんやない。願いを掛けた人間が身代わりになるんや。命を賭けて願いを叶えてくれる、縁起でもない観音さんなんや」

「それでは、オレは自分の命と引き換えに部員増員を願ったというわけか……凜理」

「なに?」

「オレの屍を越えて、立派な呪術師になれ。オレは怪異と立ち向かわねばならないからな」

「縁起でもないこといわんといてぇな」


 結局、千本鳥居については呪歌を歌ってはならないと言うこと以外収穫はなかった。




 母屋を出て、外で待っている菊瑠のもとへ向かう。


「なぁ、その銅鏡のこと、聞いとかんで良かったのん?」

「これか……」


 満夜はポケットに入れている銅鏡を取りだした。曇った鏡面には何も映し出されない。千本鳥居であれほど赤く光っていたのが嘘のようだ。

 この銅鏡が災いとなるか、それとも心強い武器になるかはまだわからない。そもそもこの銅鏡の使い方がわからないのだからどうしようもない。


「いずれ、この銅鏡についても明らかになるだろう。白山くん!」


 鳥居の外にたたずんでいる菊瑠に満夜は声を掛けた。


「あ、先輩! どうでした?」


 かなり待たせたにもかかわらず、菊瑠は疲れた様子もなく、笑顔を見せた。


「とにかく、今日はもう遅い。また明日の放課後に千本鳥居に集まることにしよう」


 気付けば、空はあかね色に染まり、家々の形が黒く沈み始めている。カラスの鳴き声が遠くから聞こえる。見れば、身代わり観音堂がある山の上にたくさんのカラスが群がっていた。




 凜理に見送られて帰途につく満夜はブツブツと何やらつぶやいていた。


「時間が足りない……放課後のたった数時間ではこの謎を解明し検証する時間がない! そうか……よし。今度の土日はオカルト強化訓練だ! 凜理の家に集まると称して、千本鳥居で一夜を明かす……よしッ、完璧な計画だな!」


 当然そのことを凜理と菊瑠は知らないが、そんなことなんかお構いなしに、勝手に満夜は決めるのだった。

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