第6話

 菊瑠を残して二人は社務所に置いてある鍵を取り、宝物庫へ向かった。

 かんぬきを外して宝物庫の扉を開ける。分厚い戸を開けるとふわりふわりと埃が舞った。


「かび臭い。ちゃんと換気はしているのか」

「しつれいやな。毎月虫干しを手伝わされてるんやから」


 二人は凜理を先頭に中へ入っていく。

 中は薄暗く、扉から差し込む光が届かない場所は真っ暗闇だ。

 壁沿いには棚が掛けられており、中央にも背の高い棚が並べられている。

 その全てに桐の箱や、巻物、古書が積み重ねられていた。


「これ全部調べるのはむりやない?」

「とにかく片っ端から八束の剣に関する文献をあさっていくしかない!」


 まずは手前から手を付け始める。

 棚の真ん中まであさっていったけれど、とうとう満夜のほうが音を上げた。


「らちがあかん!」

「満夜が言い出しっぺやないの」

「文字が全く読めんとは思わなかったのだ」

「そら、そうやろうなぁ」


 凜理は手元にある古書を広げ、書面に書かれたミミズののたくったような筆文字を眺める。


「素直に竹子おばあちゃんに聞いたほうが良くない?」

「なんて聞くんだ?」


 満夜が疑り深い目で凜理を見やった。銅鏡や今調べていることを竹子にばらされるのではないかと思ったのだ。


「ばらさへんよ。そんなことしたら、うちも怒られるやないの」


 ひとまず棚から出した古書や桐の箱を元に戻すと、二人は宝物庫にかんぬきを掛けて、社務所から母屋に上がっていった。




「ただいまー。おかあさん、竹子おばあちゃんおる?」


 リビングに入って、ソファに座っている母親に声を掛けると、美千代がテレビから目を離して満夜を見た。


「あら、満夜くん、こんにちは」

「お邪魔するぞ」


 満夜のふてぶてしい態度になれている美千代が、お茶を持って行くわねーと席を立った。


「おばあちゃんは部屋にいるわよ。満夜くん、飲み物は何がいい?」

「お任せする」

「もういいから、こっちきいや」


 満夜は凜理にせかされて、竹子の部屋へ赴いた。


「竹子おばあちゃん、おる?」


 ふすまの向こう側から、衣擦れがして、戸が開いた。


「あらまぁ、満夜くんどないしたん。凜理も改まっちゃって」

「聞きたいことがあるんやけど」

「聞きたいこと? 部屋に入り、それから聞こうやないの」


 二人は竹子に促されるままに部屋に入っていった。


「で、聞きたいこというんはなんやの」

「や……! むぐう」


 満夜が息せき切ってしゃべろうとするのを、凜理が口を塞いでとめた。


「千本鳥居のことや」

「千本鳥居? あそこがどないしたん?」

「なんか言い伝えとかないのん?」

「そんなまだるっこ……、むぐう!」


 満夜が単刀直入に聞こうとするのを、凜理がことごとく邪魔をする。


「言い伝えなぁ……そうやね、あそこで歌ったらアカン呪歌いうのんはあるな」

「呪歌?」


 凜理が不思議そうな顔をして聞き返した。


「呪いの歌か!」


 満夜はまさに自分にうってつけの案件とでも言い足そうに声を上げた。


「のろいとちゃうで。まじないや」


 竹子がすました顔で答えた。


「まじない?」


 期待が外れてがっかりと肩を落とす満夜を背に、凜理がいった。


「そうや。凜理が小さい頃あそこで遊んだらアカンいわれてたやろ?」

「そういえばそうやな。でもこっそり遊んでたけど」

「かくれんぼやら、そういうのはええんよ」

「そうなのか。妖怪大戦争はいいのか?」


 満夜は自分が凜理相手に遊んでいた遊び、創作遊びを思い出した。

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