第3話

「平坂町にはたくさんの不思議な場所がありますよね? オカルト研究部に入ったらそういうところをもっと詳しく知ることができるんじゃないかって思って」

「白山さんは平坂町の出身やないのん?」

「いえ、ずっとここに住んでます」

「それなのに、あんまり知らんの?」


 平坂町の不思議スポットは小学生以上ならみんな知っていておかしくない。大抵が遊び場だったりするからだ。


「知ってますよ。ただ、オカルト的にもっと知りたいんです。先輩方がどうするのかなぁって……」

「ふーん……。やっぱり好奇心からか」

「そうですね」


 三人でのんびり歩いていると、こんもりとしたもりに行き着いた。


「ここだ」


 杜が左右に拓かれた正面に立ち、満夜が言った。

 確かに杜の奥に、真っ赤な鳥居が何本も見える。満夜はポケットの中に収めた、銅鏡を握りしめた。なんだか熱を持っているように感じられる。それを取り出して眺めると、心なしか、鏡面が赤く照り返しているように見える。


「なんだか赤くないか?」

 と言って、菊瑠に見せようとすると、菊瑠が慌てたように、凜理を指差した。


「薙野先輩が……!」


 凜理が薄く待って頭を押さえている。


「凜理、どうした!」

「やばいよ。クロちゃんが表に出たがってる……」

「早くバンダナを」


 しかし、間に合わず、凜理は一声叫んだ。


「にゃああああーーん!」


 ピンとたった黒い耳と、スカートから覗く黒いしっぽ。凜理は鳴きながら、ぴょんぴょんと千本鳥居の中へと入っていってしまった。


「今のは薙野先輩なんですか?」

「今日の演技は神がかっているな」


 満夜は菊瑠にいい加減な言い訳をしながら、凜理に続いて、千本鳥居に入っていったが、菊瑠だけが、杜の外につっ立っている。

 満夜が振り返って声をかけた。


「どうした? 早く来るのだ」

「わたし、ここで人が来ないか見ています」


 満夜は顎をなでた。


「ふむ……。分かった。それではそこで待っているのだ」


 そう言いつつ、手に持った銅鏡を辺りにかざす。


 ますます銅鏡が赤く輝く。不穏な色だ。鳥居の上に乗っかった凜理が、「ふしゃあああ」と銅鏡に向かって威嚇した。


「なぜ、銅鏡が赤く光るのだ。何か秘密が隠されているのか」


 すると、ねこむすめと化した凜理が、クロの言葉を発した。


「銅鏡は、自分を封印した天敵に反応してるんだ。凜理がその場所を探しだす。銅鏡が最も赤く光る場所を照らせ」

「偉そうな猫だ」


 満夜は、空高く銅鏡を掲げた。曇天の空に銅鏡の輝きが反射しそうなほどに赤く光っている。


「こっちだにゃん」


 そう言って、ねこむすめが鳥居をひとつひとつ渡っていく。そして、入り口から八本目の鳥居にたどり着いた時、満夜は、まるで赤い血のような光を放つ銅鏡を見た。


「こ、これは……」

「ここに八束の剣が眠っているにゃん」

「ここの根本を掘れば、八束の剣が出るというのか?」

「満夜はアホだにゃん。掘って出てくるなら、もうとっくの昔に発見されてるにゃん」

「ではどうすれば!?」


 満夜は掴みかからんばかりの勢いで、凜理に迫った。


「それは、術師の子孫である満夜が考えることだにゃん」


 シュルリと魂が抜けるように、凜理からクロが引っ込んだ。

 危うく鳥居から足を踏み外して頭から落ちそうになった凜理を満夜が間一髪で支えた。


「な、何? なんやの?」


 記憶が無い凜理は、鳥居から落ちた事態に肝をつぶしている様子だった。


「黒猫が出てきて、ここに八束の剣が眠っていると教えてくれた。ほら、銅鏡がこれほど不気味に赤く光っている。だから間違いがないのだろう」

「じゃあ、掘れば見つかるの?」

「掘っても見つからないらしい。掘る以外に見つける方法は術師としてのオレの才能にかかっているらしい」

「あんた、術師の才能なんかないやん」

「いや、秘めたる力の具現は、即座には目覚めることができないのだ。なにか、きっかけが……。目覚めのきっかけが必要なのだ!」


 血のように赤くなった銅鏡を握りしめて、満夜は叫んだ。

 空も血のような色に染まりかけている。六時を過ぎようとしている。


「満夜、今日はここらへんで終いにしよ。白山さんも帰してあげないと」

「うむ。そうだな……。続きは明日だ」


 二人は杜の外で待っていた菊瑠に声をかけた。


「用は済んだ。続きは明日だ」


 満夜が菊瑠にそう言うと、彼女が不思議そうな顔をした。

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