第2話

 平坂町の北は空き地の多い住宅街になっている。まだ開拓が進んでいないのだ。そこにある目立った場所は千本鳥居と呼ばれる赤い鳥居が並んだ場所だけだ。満夜が背をかがめてやっとくぐれるほどの、小さな鳥居が並んでいる。しかし、祠のようなものはない。林の中にそこだけ異空間のように存在しているのだ。その鳥居の場所は所有者がいるらしく、ほかが拓かれて宅地になっていくのに、そこだけが周囲に取り残されて、昔の姿のままでいる。

 二人の足は自然とそちらに向かっていた。


「あてもなく歩きまわるよりも最初から怪しい場所に行くべきだと思うのだ」

「まぁ、そうやな。賛成やわ」


 めずらしく意見があい、二人は千本鳥居を目指した。

 新興住宅地といえど、まだ、空き地の多い宅地の並ぶ道路は何となくうら寂しい。電信柱だけが延々と続いていて、街灯も立っていない。

 二人は歩きながら、もう一つ、足音がついてくるのを感じていた。


「なぁ、後ろに誰かおらへん?」

「そうだな、誰かついてきている気がする」


 満夜がいきなり立ち止まり、後ろを振り返った。


「誰だ!」


 大声を張り上げると、十メートルしか離れていない場所を歩いていた、平坂高校の制服の少女がビクッとして足を止めた。


「貴様は誰だ!」


 茶色いくせっ毛の長い髪を二つに分けた美少女が、そこに立っていた。同級生にそんな少女はいない。いれば、凜理に並んで目立つはずだ。そのくらいかわいい。


「白山菊瑠くくるです……、芦屋先輩」

「……。先輩と呼ぶということは、貴様は平坂高校の一年か」

「先輩たちの活動を聞いて、興味が湧いてついてきてたんですけど、おじゃまだったでしょうか?」

「活動を聞いて?」


 それまで険しい顔付きだった満夜が、警戒を解いた。


「オレのクラブのことを知っているのか?」

「はい。一年の廊下にもいらっしゃいましたよね?」

「入部希望者を勧誘していたのだ」

「はい……、わたし、その時、恥ずかしくて言い出せなかったんですけど」


 凜理が目を丸くした。


「入部希望者なんや」

「はい……! オカルト研究部に入部したくて、つい、後をつけてしまったんです」


「おおおおおお――ッ!!」


 満夜が両腕を空に伸ばし、雄叫びを上げた。

 それに驚いたのか、菊瑠が一歩下がった。


「オレの念願がァ! 今! ここで叶ったぁあ!!」


 凜理も信じられないという顔で、菊瑠を見つめた。


「ほんまに入部したいん?」

「はい!」


 はにかみながら、菊瑠は答えた。


「これで、身代わり観音の効力は証明されたな! あとは、行方不明になるメカニズムを解くだけだ!」


 不穏極まりないことを叫んだ満夜が、ビシィッと菊瑠を指差した。


「白山くん! 我がオカルト研究部へようこそ!! 大いに歓迎するぞ!」


 菊瑠はほんわかとした笑顔を浮かべて、お辞儀をした。


「芦屋先輩、薙野先輩。よろしくお願いします」

「あ……、うん」


 この展開に一番ついていけてない凜理は頷いた。そして、まじまじと菊瑠を見つめた。本当にこの子は本気なのだろうか、と。けれど、菊瑠の笑顔からは 感じ取れなかった。


「まずはどこに行くんですか?」


 菊瑠が満夜に聞いてきた。


「まずは、千本鳥居に向かう」

「千本鳥居に何があるんですか?」


 菊瑠は興味津々で訊ねてくる。


「まだ、何もわかってない。だが、すぐに分かるだろう。俺のソウルが語りかけてくるのだ!」


 そう言いながら、自慢気にポケットから銅鏡を取り出して、菊瑠に満夜は魅せつけた。


「わぁ、それなんですか?」

「いわく有りげだろう! そうだ。これこそ、怨霊崇徳院を封じ込めた銅鏡なのだ! この銅鏡が、俺を八束の剣へ導くのだ!」


 それを聞きながら、凜理は呆れたように突っ込んだ。


「勝手に封印解いて、持ち歩いてるアホはあんたやろ! それに銅鏡が八束の剣を見つけるとか、あんたがこじつけたデタラメやん!」

「白山くん、この女の言うことに耳を貸さなくていい。真実は我手中にあり!」

「はぁ……」

「満夜、後輩を困らせてどうするんや……。まったく……。白山さんはどうしてこいつのオカルト研究部にはいろうと思ったわけ?」


 かねてより疑問だったことを、凜理は菊瑠に質問した。

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