第2話 ホームゲーム

「敵もなかなかやりますね」

「敵も同じように思っているかもしれないがね」

「とても勝てない相手には思えません」

「我々のホームに来たチームにしては、今のところよくやっている」

「本来の力を出せれば、一蹴できるでしょう」

「早く力を出してもらいたいものだよ」

「そこがホームなのか、アウェイなのか、僕はだいたい最初にそれを肌で感じます」

「あの大声援が聞こえないのか? ここは紛れもないホームだ」

「例えばそれは扉を開けた瞬間の部屋の空気でわかります」

「私はスタジアムに一歩足を踏み入れた瞬間にわかったね」

「例えば初めて座る椅子に腰掛けた瞬間、どうにも心地の良くない椅子というのがある。それが本当に自分に合っていないのか、以前自分が身を置いた場所との違和が不安にさせるのか、よくわからない時があるんです」

「私はずっとベンチに座っていられない。すぐに熱くなってしまうからね」

「もう少し時間が経って自分の身体に馴染んできた時、それは正に自分のために作られた椅子であるように思える」

「まあ、そういうこともあるだろうな」

「それは遅れてやってきたホームなんです」

「君もここがホームだとはわかっているんだろう?」

「けれども、その他の物についてはどうか。不安は消えたわけではありません。テーブルについてはどうか、壁については、照明については、カーテンについてはどうか。椅子がホームだからといって、すべてのホームを保証するものではないと僕は気づいてしまった」

「完全なホームを求めるのは幻想ではないかね?」

「監督、その通りなんです。完全なホームなんて、どこにもない幻想なんです。僕らはある部分的な何かを指して、あるいは数の理論だけに沿ってホームを決定していただけです」

「心ない者もいる。それはどこにいても仕方のないことだ」

「それでどうしても揺れてしまう」

「自分を信じるんだ」

「ちょっとしたところで、変わってしまうと気づきました」

「その発見がゴールにつながるなら、喜ばしいことだ」

「本当に、ちょっとしたことで……」

「時間が進んでないんじゃないか?」

「僕はずっと考えているんです」

「いったいここの時計はどうなっているんだ」

「僕は考えるストライカーなんです。考える間というものは、時間は止まるものでしょう?」

「おかしいじゃないか。審判が考える時間まで考慮するのか。おい、審判! ちゃんとしろよ!」

「監督、落ち着いてください。大事なことは、時間が止まっている間は、スコアも動かないということです」

「やっぱり止まっているのか。全く、何を考えているんだ」

「ゴールについてのすべてです。すべてについてのゴールです」

「それでいつになったら、ゴールは生まれるんだ?」

「色んなことを考え、考えすぎながら動いていたのです」

「だろうな。あまり効率的な動きには見えない。周りとの連携もはまっていない」

「いつも先に疲れるのは頭の方です。僕は少し頭と身体のバランスを崩しかけています」

「戦えない選手なら、私も考えることになるだろう」

「遠く離れた町に僕はいました。誰もかれもが敵に思える。靴下を揃えた者たちが囲んでくる。味方なんて誰もいない。大柄な選手に体をぶつけられて僕はよろめく。もうおしまいだ。奪われてしまうんだとあきらめかけていた時に、どこかから声が聞こえる。そんなはずはないのに、とても近くに感じられる声」

(頑張れ!)

「熱心なサポーターが来てくれていたんだな」

「その瞬間、僕の中で朽ちかけていた力が目覚めました」

「一つの声で選手は変われるものだ。さあ、自分を取り戻せ」

「自分と同じ色の靴下を履いた存在に気づきました」

「味方がフォローに来たんだろう」

「どこにもスペースのなかったところから僕は反転したのです」

「新しいターンを見つけたんだな。それを思い出せれば、ここでできないことは何もないはずだ。さあ、早く戻って来い!」

「ここはホームなんですね」

「ようやく時計が動き始めたようだ」

「ホームの風が味方してくれるんですね」

「そうとも。ここが世界一の我々のホームさ!」

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