困難砕く「けもの」の調和
アイレスの瞳が、再び輝き始める。
その光にはセルリアンに対する冷たい怒りだけではなく、仲間を護る暖かい意志が灯る。
そしてポニーテールは、再び蒼き爆炎となる。
「ユーラ、ちょっと協力して貰えるかな」
「はい、出来る事なら何でも」
「急降下してきた僕を、息を合わせて前にぶん投げて欲しい」
「...ええ、難しそうですが、全力でやらせて頂きます」
アイレスは一瞬微笑み、再び衝撃音と共に空の彼方へ消える。
爆風により、戦闘機セルリアンは木々や地面に叩きつけられる。
そんな中、怒涛の吹雪を纏うユーラは体勢を崩さない。
「こんな風でよろめいては、ヒマラヤは越えられませんよ?」
やがて、天の影が再び七色に爆発し、一筋の流星が降る。
その光は、真っ直ぐユーラの元へ落ちる。
ユーラの瞳の輝きと流星の蒼き光は、寸分たがわずリンクする。
やがて、二人の手が固く結ばれ。
アイレスの運動量はユーラに伝わり、二人は高速で回転する。
フレンズを語る上で、大切なことがある。
それは複数人のフレンズが、同じ目的の元、力を合わせた時_
_単純な足し算を、遥かに上回る力を発揮する。
ヒマラヤを越えるユーラの腕と翼にも、力がみなぎる。
二人の力は精密に呼応し、回転は急激に加速される。
やがて、衝撃を纏う蒼い流星が、ユーラの手から放たれる。
「あぁ、この感じ...相棒に投げられる時と...」
アイレスの瞳から、サンドスターとは違う輝きの雫がこぼれる。
<けものミラクルコーラス>
「”紫電流星スウィング・バイ・マニューヴァ”!!!」
森中に閃光が走る。
一瞬の光の飽和の後、アイレスはクモの遥か後ろにいた。
足から伸びる着地跡は地面が抉れ、更には草が摩擦熱で焦げ、煙をあげていた。
次の瞬間、辺り一面を埋め尽くしていた戦闘機が同時に粉々になる。
マヘリが相手をしていたクモの足も、完全に砕け散る。
アイレスは、セルリアンが砕けるよりも迅かった。
「これでいいかな、頭領さん」
「満点以上」
そう言って、残雪は木の枝を地面に刺し、前傾姿勢をとる。
<けものミラクル>
「仕上げだ...”アンセル・エアフォース”!!!」
その瞬間、残雪から溢れるサンドスターの輝きが次々に鳥の形となる。
「ATG、ナワバリの留守番を頼む」
「了解よ!」
残雪は何十ものサンドスターの鳥を従え、何も持たずクモに突進する。
輝く群れを纏う残雪は、先ほどよりも段違いに力強く、速い。
やがて輝く小さな鳥たちは残雪の翼と融合し、輝く巨大な翼を作り出す。
「ユーラ! 足が再生する前に奴を打ち上げるぞ! マヘリは上空でとっておきを頼む!」
「了解です!」
「随分待たせたのう...心得た!」
ユーラは突進する残雪に息を合わせ、クモの元へ羽ばたく。
マヘリはアイレス同様、天高く翔け上がる。
その巨大な翼のはためきは、森林全体を揺るがして余りあるものだった。
そして、クモの元には光輪を纏う雁と、巨大な輝く翼を持つ雁。
二人は息を合わせ、片足を踏み込む。
余りの力に、森は揺れ、足は地面にめり込む。
技を止めようにも、足をもがれたセルリアンには何もできない。
やがて、十分な力のタメを伴った二人の拳が、満を持してセルリアンに叩き込まれる。
「王手だクソ野郎!!!」
「アナタを赦すわけにはいきません!!!」
雲にまで響きそうな打撃音と共に、セルリアンは花火の如く打ちあがる。
セルリアンの体は、森を見渡せるほどの上空へ。
やがて、クモの体が最高点に達しようかという時。
「...ようやら本気出せるのう...」
ドスの聞いた声が、遥か高き空から響く。
純白に輝き鋭く逆立つ後髪は、荒ぶる怪鳥の野生解放を示す。
元々鋭い目つきは金色の眼光を帯び、凄まじい速度で急降下し迫る。
本能的に危険を感じたクモは、自らを糸で包み、瞬く間に分厚いマユを形成する。
マユの大きさは元の体の2倍にも達し、あらゆる打撃を無効化できそうであった。
「それで防げるつもりか...哀れじゃ」
マヘリは体を翻し、鎧を纏う足を獲物に向ける。
その足には、アイレスの物とは比較にもならない程の、重機のような爪が5本。
「おどりゃあ残雪さんが鷲に、地上で本気を出させんかった意味、分かっとんか?」
その表情は、鬼神の様相を呈する。
「コイツを地上で撃ったら_
_おンどれごとアイレスさんの大切な場所が消し飛ぶからじゃア!!!!!」
マヘリの一撃が、巨大なマユにめり込む。
マユはマヘリの足と衝撃波を前に、あっけなく綿あめの如く潰れ、裂ける。
余りのエネルギーに生じた空振は、パーク全土の大気を揺るがす。
一瞬のうちにマヘリは体ごとマユの裏側に貫通し、マユには大穴が空く。
ドス黒いセルリアンの体は、七色の光へと崩壊してゆく。
やがて、巨大な鉄骨が崩れ落ちるような断末魔をあげ、セルリアンは七色の光と共に空へと消える。
大役を終えたマヘリの足は、発射直後の砲塔のように薄っすらと煙をあげていた。
「ワレの体が後5倍デカけりゃあ、少しは楽しめたじゃろうな...」
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