残雪に集う群れ

「っ!!!!」


 腕の躍動はアイレスをクモから引きはがし、アイレスは勢い余って少し離れたところに転がる。


 そこへ大量の戦闘機が、ハイエナのように群がろうとする。

 しかし、そんな戦闘機を季節外れのブリザードが襲う。


「仲間をそう簡単に逝かせるものですか...」


 インドガン。

 ヒマラヤ山脈を、自力の羽ばたきのみで越える渡り鳥。

 高度に発達した呼吸・循環器、筋肉を備え、その代謝能力は通常の鳥の数倍とも言われる。

 筋力にも恵まれ、高度7000m以上を80 km/hを越える速さで巡航し、さらに瞬間風速200 km/hのブリザードの中でも安定して飛行できる。


 ブリザードの冷気で動きを鈍らせ、乱れ舞う氷雪の刃と共に肘撃ち、膝蹴りで戦闘機を次々堕とす、灰色の大きな翼。

 それは、ユーラだった。

 上着を腰巻し、サンドスターの輝きを眩しく放つ姿は神の使いのようだった。

 そして背中には、ブリザードとは対照的に熱気を放つ赤い光輪が。


「...それが君の力...かい?」

「ええ、そうです。冷たいか熱いかもしれませんがお許しくださいね」

「それは良いんだ...ユーラ、マヘリがあのクモに!!...あと花は!?」


 倒れ伏しながらも仲間の心配をするアイレスに、ユーラは戦いながら微笑む。


「その心配は要りませんよ。ご覧くださいな」


 クモの方を見れば、絡まる足も糸も涼しい顔で引きちぎるマヘリ。

「こがーな脆いモン、巣の材料にも使えんのう」


 花の方を見れば、木の枝を薙刀のように振るい戦闘機を寄せ付けない残雪。

 そして水面のように輝くサンドスターの幕を纏い、花を護るATG。


 マガン。

 風に頼らず、80 km/hの速度でロシアから日本まで南下する体力を持つ。

 又、羽休めのために水面に浮かべる止まり木を持っていることが有る。

 旅の途中で仲間が傷つけば、何羽かが付き添って降下し、看病する。

 仮に降り立った地で死ぬ危険が有ったならば、仲間と運命を共にする。


 アカツクシガモ。

 縄張り意識が強く、体格が大きな相手にも臆しないカモ。

 茜色に輝く翼は水を強くはじき、水中に潜っても濡れることが無い。

 そのため、水中からの敵からは飛ぶことで、空の敵からは潜ることで回避でき、水面そのものを味方につけていると言える。

 又、仲間が危険に晒されたとき、自ら囮になる擬傷を行うことが有る。


 二人の瞳は野生解放の輝きを放つ。

 ATGの水面に絡め捕られたセルリアンは、一瞬にして身動きが取れなくなり。

 プロペラの如く振り回される残雪の枝に、戦闘機は砕かれてゆく。

 もはやセルリアンは、花に近づくことすらかなわない。


「アイレス、聞こえるか!?」


 残雪は声をあげる。


「...聞こえるよ。耳には自信が有るからね」

「お前の花、これ以上傷付けさせたりはしねェ」

「...でも、もう...」


 俯くアイレス。


「…だからどうした」

「え」

「この場所が、大切な場所なんだろ? 相棒、相棒と言ってるが、相棒はここに居んだろ!?」

「...」

「お前が植えたこの花、”紫苑”だろ?...私も知ってんだよ」

「...!」

「お前の相棒に何が有ったかはあらかた予想がついた。だがな、花が裂けようが、枯れようが、この地そのものが溶岩に溶けようがな、テメェがその思いを持ち続ける限り、相棒は死なねェよ!!!!!」

「...残雪...」

「だから私らも、その思いを尊重する_


_この場所をこれ以上傷つけさせねェまま、あのバカをぶっ飛ばす!!!!」


 残雪の瞳からあふれる七色の光は、混じり合って純白となる。

 ATGの瞳の輝きも増し、空中を舞う水面のベールは更に厚く、大きくなる。


「アイレス、さっきはゴメンね」

「ATG?」

「無神経だったよね。アタイ、ニブくてアンタを傷つけた」

「いいよ、一人ぼっちなのは...間違いないし」

「じゃあ、もう一人ぼっちやめない?」

「...?」

「アンタが良ければ、仲間にさせてよ」

「えっ」

「アンタは、アンタのナワバリは_


_もうアタイのナワバリだから!!」


 力を合わせ、一切セルリアンを寄せ付けない残雪一行。


「相棒...皆が...相棒みたいだよ...」

 憔悴していたアイレスの瞳に、再び輝きが宿り始める。

 セルリアンはユーラの吹雪を警戒し、攻撃を仕掛けなくなっていた。

 少し余裕ができたユーラが、アイレスに語り掛ける。


「アイレスさんの相棒は、本当に良い方だったんですね」

「うん...生まれた時からずっと大切にしてくれて、暖かかった」

「...私にもね、昔、何十もの旅仲間が居たんですよ」

「何十も!...凄いね」

「ええ、優しくて、逞しかったです。でも、皆こんな吹雪に飲まれて...私は一人飛び続け、ここにたどり着きました」

「!?」

「そんな私を、残雪さんが助けてくれたんです。残雪さんより強いフレンズやセルリアンは、確かに沢山います。でも、残雪さんはいつも一生懸命考えて、私たちを危険から遠ざたり、導いたり、寄り添ったり...時には自分を盾にして仲間を護ります」

「...」

「だからせめて私たちは、残雪さんを全力で支えます」


「本当に素敵な頭領さんと、仲間たち、だね」


 アイレスは大技の疲労とダメージから脱し、ゆっくりと立ち上がる。

 激しい迎撃戦の結果、セルリアンの数は幾分減っていたが、アイレスが技で無双した時よりもまだ多かった。


「大丈夫か、アイレス」


 残雪は再びアイレスに声をかける。


「うん。動けるよ」

「そうか...アイレス、さっきの技、もう一回やれるか?」

「...そうだね、今ならできそう。もっと強いのが」

「...その声色、ハッタリじゃねェな。戦闘機とあのクモ野郎の足を全部狩り取って、退却頼めるか」

「本体は良いの?」

「お前も見ただろう? うちの最終兵器」


 アイレスはクモの方に目をやる。

「ええ運動じゃ。しかし森は傷つけれんけー本気出せんし、コイツは歯ごたえねーし...」

 クモの執拗な攻撃をあしらうマヘリの姿。


「お前の攻撃が効かなかったあのクモ、中々タフだ。マヘリの技なら確実に仕留められるが、少々発動に時間がかかる上、この森の中じゃ撃てねェ。本体の動きさえ一瞬止めてくれたら、後は私らデケェ鳥に任せな」

「分かった。じゃあ...僕の本気で吹き飛ばされないようにね」

「言うじゃねェか」


 アイレスの瞳が、再び輝き始める。

 その光にはセルリアンに対する冷たい怒りだけではなく、仲間を護る暖かい意志が灯る。

 そしてポニーテールは、再び蒼き爆炎となる。

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