裂かれ舞い散る思い草
アイレスも、梢が風に揺れる音の中に、微かながら禍々しい風切音を聞く。
「お前も気づいたか。セルリアンの音だ。しかもかなり素早ェ」
「成程ね、流石リーダーさんだ」
「アイレス、警戒しろ。2体、数秒で来るぞ」
「分かってるよ」
アイレスの手は、サンドスターの輝きを纏う。
その輝きが親指に集まり、猛禽の爪を出現させる。
アイレスは俯き、つぶやく。
「僕がここでヒトやフレンズを追い払っていたのは、花のためだけじゃないんだ。ここは危険なセルリアンがね、たくさん出るんだ。だから」
顔をあげたアイレスの目は、猛禽の鋭さを帯びていた。
「だから、他の誰かに、大切なヒトを失う気持ちを、味合わせたくないんだ!!!!!」
アイレスの叫んだその瞬間、アイレスの背後から2体の毒々しく彩られたセルリアンが現れる。
その形は非常に鋭い戦闘機のようであり、凄まじい速度で森の木々を縫って飛んで来た。
「アイレス!!! 後ろだ!!!」
残雪の瞳に輝きが走る。
フレンズの技、野生開放。
野生の本能を覚醒させ、戦闘力を大幅に向上させる。
そして、セルリアン迎撃のため枝を振りかぶった残雪の足元に、
既にバラバラになったセルリアンの残骸が転がる。
「ッ…!!?」
残骸が転がって来た方向には、腕を振り終えたアイレスの背中。
「せっかくお話できた皆を、君らみたいなノロマに奪わせやしないよ」
アイレスの振るった神速の爪に裂かれた残骸は、光と共に消える。
一瞬の出来事に、一同は驚愕した。
「え、何、何したの!?? ユーラ、分かる?」とATG。
「いえ、何が起きたのか...よく見えませんでした…」とユーラ。
「ほう…ハッハッハ! やっぱり面白い小娘じゃ」とマヘリ
しかし、残雪だけは鋭く輝く目のままであった。
「アイレス!!! 油断すんな!!!」
「えっ」
「第二波来るぞ! 今の比じゃねェ!!」
その瞬間、アイレス含め一行を囲む全方位から、高速の戦闘機セルリアンが現れる。
「総員、身を護れェ!!!」
残雪の声に、全員が各々防御態勢をとる。
上着にしまってあった木短刀を投げ、枝を振り回し迎撃する残雪。
雰囲気に似合わず、羽ばたきの如きアグレッシブな肘・膝撃ちで身を護るユーラ。
身を可能な限り縮めるATGと、その頭上でセルリアンを屈強な足で防ぐマヘリ。
アイレスも迫る大量のセルリアンを、目にも止まらぬ爪捌きで辛うじて弾く。
「くっ、寄って集って、卑怯だね...!」
必死の防御により、セルリアンの奇襲を何とかやり過ごす。
「総員無事か!?」
「大丈夫です!」
「アタイ、死ぬかと思ったたた…」
皆の無事に、アイレスも安堵した。
「よかった...皆、凄いや。あれだけのセルリアン相手に...」
が、直後、花に目線が止まる。
「あ…」
アイレスが植えていた薄紫色の美しい花は、大部分が無残にも引き裂かれていた。
残っていたものも茎が折れており、恐らく一日もすれば枯れる程傷ついていた。
アイレスの瞳から、一切の輝きが消えうせる。
それは一切星の無い夜空のように、深く深く真っ暗となる。
残雪ですら、どう言葉をかけて良いか分からなかった。
いや、知識のある残雪だからこそ、どう話しかけて良いか分からなかったのだ。
アイレスの言う、相棒、という存在。
時折、表情に垣間見える、深い悲しみ。
異常なまでの、その花への執着。
そして、遂に思い出した、ミライから教わったその花の意味。
~~~~
残雪「これが花の図鑑...か。いつも見てる花にも全て名前が有んだな」
ミライ「そうですよ残雪さん。皆さん動物やフレンズ達と同じですね」
残雪「面白ェ。今度から踏まねェよう気を付けるか」
ミライ「良い心がけですよ! 綺麗な物ばかりですし」
残雪「ん、何だこれ、凄ェ綺麗だな。この紫色の」
ミライ「ああ、それは_
_ 紫 苑 で す ね 」
~~~~
「うぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!!!!!!!」
アイレスの怒号が、静かな森に響き渡る。
その覇気は、屈強なマヘリですら気圧されるものだった。
怒号と共に、ポニーテールが爆炎のように逆立ち、青白く輝く。
やがて怒号のこだまも響き終え、再び静かな森林に戻る。
アイレスは、所作は落ち着いていた。
だが、その身はサンドスターの輝きを纏い、目には冷たくも激しい怒りを灯らせていた。
「これをやるのは…相棒の時以来だよ」
凍り付くような怒りが、木々を、皆を圧する。
森の奥、木々の影の中で、飛び交うセルリアンのおぞましい音が響く。
「ちょこまかと煩わしいね...無駄だよ。どこに居たってさ」
そう呟き、アイレスの体が突然消える。
刹那遅れて、空気が引き裂かれる衝撃音が森に響く。
アイレスが居た空間に空気が引き戻され、辺りの木々がその風に揺さぶられる。
そしてアイレスの影は、仰げば首が痛くなるほどの、遥か上空に。
「っ...凄まじいスピード...ですね!」
「何よあの子! 精霊風やってた時は本気じゃなかったって言うの!!?」
「...ワシよりも”迅い”のう...あがぁなヤツはそうそう拝めん」
アイレスの能力に一行が口々に言葉を発する中、野生解放を続ける残雪が指示を発する。
「お前ら! セルリアンが来るぞ! 花を護れ!」
「え、でも、もう花は...」
「ATG! その花自体も大事だが、此処が、この場所そのものがアイレスにとって、特別な場所なんだ! どんなに傷つこうが、護らなきゃならねェんだ!」
「...分かった。アタイが信じる頭領さんがそう言うんなら...!」
「良い子だ!」
残雪に引き続き、花を中心に一斉に集まる。
次の瞬間、大量の戦闘機が彼女らを囲む。
そして無数のそれらと木々の後ろに、大量の足を持ち、頭部に存在する穴から戦闘機を放出する、巨大なドス黒いクモのような形のセルリアン。
それは巨大で、森の木と同じ背丈ほどあった。
「あのデカブツが親玉じゃろうな...残雪殿、ワシゃあいつでも行けるけぇよ」
「来ましたね...どうしますか...残雪さん」
臨戦態勢をとる仲間に、残雪は告げる。
「いや、アイレスの技を待とう。今出たら技を邪魔するかもしれねェ...それにな」
残雪は一呼吸おいて、花を護る全員に語る。
「墓荒らしってのァ、最も卑劣な行為だ。アイレスも、ちったァ暴れなきゃあ気も収まらねェだろうさ。皆聞いてくれ、この花はな_
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