ハートフル・ステーション
「何時だと思ってんだ」耳と肩に電話をはさみ、時計を見やると二十三時である。憤るほど
「誰かに吐きださないと、俺、死んじゃうよ」
「じゃ、死ね」
などと
「私のことは遊びだったのね⁉」
突然金切り声があがるものだから、危うく飴を飲み込みかけた。
「よせよ、こんなところで……ひとが見るじゃないか」それには同意見だが、興奮した人間に正論は火に油だ。目の端でちらりと伺うと、壁際で男性ふたりが揉めている。
「ユウジのバカ。一生一緒だっていったじゃない‼」
あッと思った。よく聞けば、あからさまに男性の声である。事情はよくわからないながら、心なしか周囲の人間も息をひそめている気がする。
「僕だって、アサコとずっと一緒にいてえよ! でも……でも、そうじゃねえんだよ!」
「ユウジっていつもそう」
「おい、ちょっと待て、なんだあれは見ろあれを」
「ほらね。いつもそうやって話そらすじゃんどうでもいいんだよね? 私のことなんて」
ユウジとやらの指さすさきを見て、思わず声を詰まらせた。真上の夜空にアダムスキー型のUFOが浮かんでいたのだ。ホームの明かりを映すほどの至近距離だ。
喧嘩どころではなくなったと見え、さしものアサコも空を見て縮こまった。ホームにいる全員が空の一点を注視していた。スマホを向ける人間もいたが、多くはむしろ恐怖で固まって見えた。すると、やにわにUFOが点滅を始めた。ひぃと思った。
「アーイシャ・サインだ」隣に立っている背の高い男が呟いた。
「おっさんわかるのか?」
「モールス信号みたいなもんさ。宇宙(略)俺はNASAで働いていたから、わかるんだ」
「で、なんていってんだ」
「これは……革命が起こるぞ」
「侵略‼」近くにいた女子高生ふたりが声を上げた。
「彼らは性的マイノリティを不当に迫害しないよう、各国に宇宙的圧力をかけるといっている」
「なんで?」まあ革命かもしれないが、銀河が口を
「わかった!」女子高生のひとりが手を打った。
「宇宙人差別とかされると嫌だから、交流をはじめるまえにどうにかしておきたいんじゃない?」
「ユウジ、わたしたち一緒になれるのね!」
「彼らは不当に迫害した者に宇宙的処罰を与えるともいっている」
「私も……
「えッ」亜紀というのが顔を赤くした。
「ごめん。私、本当は、女の子として亜紀のことが好きだったの。噓ついてた。亜紀にも自分にも」
「
「ごめん」
「わたしだって、絵里のことが好きだったのに。ずっと、隠してるの、つらかったのに」
「亜紀」
「そうだ! 僕らは何を
そのとき、だれからともなく拍手が巻き起こった。ちょうどやってきた電車に隠れてしまったが、反対側のホームにいる人間たちも彼らと彼女らを祝福していた。
上空でUFOが橙色に五回点滅した。
「NASAのおっさん、あれは?」
「ア・イ・シ・テ・ルのサインだろう」
ふいに聞き覚えのある音楽が鳴って、目の前の電車が動きだした。はッとした。彼らに気を取られて、涼の家までの終電を逃してしまった。ホームでは歓声がいつまでも
翌日、宇宙からのメッセージに紛れて小さく青年の自殺が報じられたが、あれは涼ではなかったことをいちおう申し添えておく。
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