しあわせな結末

 は朝、小学校へ登校するまえに飼い犬の「はんぺん」の散歩をするのが日課だった。

 ある朝、おなじように犬を連れたひとりの青年とすれちがった。

「おはよう」

「お」声がうわずった。

「おはようございます」

 緊張して、おもいがけない大声になった。はずかしくて顔が熱くなったが、それ以上にどきどきするのを感じていた。恋をした。

(はじめて会ったな。ひっこしてきたひとなのかな。それとも、ただの偶然だったのかな……)

 その晩は、どきどきしてあまり眠れなかった。つぎの日の朝、まぶたをこすってはんぺんの散歩にでかけると、きのうとおなじ場所でふたたび青年と犬に出会った。

 それから、美和と彼らは毎朝そこですれちがった。ふたことみこと話すようになり、やがていっしょに歩くようにもなった。

 青年はそうといい、犬は「ちくわぶ」といった。ついせん、ちくわぶの散歩を条件に、彼のかよう大学に近い叔父夫婦の家に越してきたのだった。

 いっしょにいる時間は十分くらいのもので、すぐにわかれる。その十分が、美和にとってなによりたいせつになった。

(もっと、ずっといっしょにいたいな。でも、わたしみたいな子どもは、相手にされないんだろうな。むこうは、わたしのことを、なんと思っているんだろう)

 うれしくなったり、不安になったりいそがしかったが、それでも朝になると、せいいっぱい身なりをととのえるのだった。

 あるとき急に、

「結婚してほしい」といわれた。

「ぼくはどうやら、きみのことが好きになってしまったみたいなんだ。きみみたいに、かわいい女の子が、ぼくなんて相手にしてくれるかわからないけど、ぼくがきみのことをだれよりも好きなのは、ほんとうなんだ」

「よろこんで」足から力がぬけた。美和はついその場にすわりこんでしまった。そうして抱きつくと、

「わたしとあなたは、結婚できないことになっているけど、そばにいることはできるよ。ずっといっしょにいてね」

「かならずしあわせにするよ」とちくわぶは力強く答えた。

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