第19話 告白

 「シアに伝えたいことがあるんだ」


 いつにもまして真剣な表情でソーウェル様がそう言った。

 伝えたいこと?


「なんですか?」


「シア、私は貴女が好きです」


 何て、言った…?好き…?私のことが?


「ソーウェル、様…?」


「これは冗談じゃなくて、本気だよ。シア、私と結婚を前提に付き合ってください」


「…そういうことだったの」


 今、ストンと自分の胸に何かが落ちた。そうか、そういうことだったのか。

 ソーウェル様の黒い髪と紫の目が綺麗だと思ったのも、笑顔が素敵だと思ったのも、紳士に接してくださった時に嬉しく思ったのも、優しさに触れ胸が暖かくなったのも、いただいたペンをずっと持っているのも、助けに来てくださった時にひどく安心したのも、抱きしめられた時に泣いてしまったのも、笑顔を褒められた時に恥ずかしくなったのも、隣を歩けるようになったのも、すべてそういうことだったんだなぁ。


「…やっぱり迷惑だった?」


 ソーウェル様が不安そうに見つめてくる。


「違うんです。そうじゃないんです」


 そこで一旦言葉を区切る。さっき気づいたこの気持ちを伝えるのは、今しかない。


「私、ソーウェル様のことが、好きです。お慕いしております」


 私はいつの間にか、ソーウェル様のことを好きになっていたんだ。


 気づいたら、私はソーウェル様の腕の中にいた。そっと背中に腕を回す。


「私は身分も低く、一使用人にすぎません。笑顔も少ないですし、会話も社交も苦手です。それでも、こんな私でも良いのなら、よろしくお願いします」


「それでいいんだよ。そのままのシアが好きだから。ありがとうね」


 日も暮れ始めたころ、私とソーウェル様は2人並んで歩いていた。1週間前並んで歩いた時と唯一違うのは、手をつないでいるというところ。


「いまだに夢みたい」


「断られると思ってたんですか?」


「うん。身分が釣り合わないとか恐れ多いとか言って断られるかと思ってた」


 確かにあり得る。私が自分の気持ちに気づかなかったら、そうなっていたんだろうなぁ。


「私の方もびっくりですよ。ソーウェル様が好きになっていたと気づいたの、さっきなんですから」


「はは。それは大変だな」


「笑い事じゃないです。本当にもう。…ところでいつから私のことを好きになっていたのですか?」


 ソーウェル様と親交が始まったのって私の感覚だとついこの間のような気がするんだけど。そこからかな?


「1年前にリーシラ王女殿下の前でピアノを弾いて第3王女付き宮廷音楽師になった時があったでしょ。あの時だよ」


「え、そうなんですか」


 1年前ってだいぶ前ですね!?


「シアは覚えてないかもしれないけど、あの時王太子殿下も来ていたから、僕は後ろの方で控えていてね。そこで、ピアノを弾くシアを見て一目惚れしたんだよ」


「そうだったんですか…では、リーシラ様に感謝ですね」


「そうだね」


 あの場を設けたのは王太子殿下と団長だと聞くが、最終的にあの場に行くと決めたのはリーシラ様だ。リーシラ様が来なかったら、出会っていなかったんだなぁ。もちろん、王太子殿下と団長にも感謝だけど。


「…身分はどうするんですか?」


 付き合うと決めてから、ずっと不安に思っていることを口に出す。ソーウェル様は公爵家、私は子爵家だ。しかも、母上は男爵家。絶対周りの人たちから反対されるのは目に見えている。


「そこはまぁ、何とかするよ。そのことで辛い思いをするかもしれないけど、絶対何とかするから、耐えてくれるとありがたい」


「そういう妬み僻み等の悪口を気にしないのは得意です」


「それならよかった」


 今までも散々言われてきたしね。慣れてる慣れてる。お城は気にしない精神がないとやっていけません。あと、ノリと勢い。


 私の家に着き、部屋に入る。そしてベッドに横たわる。ごめん侍女さん、今日ばっかりははしたなくても許してほしい。


「ソーウェル様が恋人、かぁ」


 異性を好きになることなんてないと思っていたんだけどなぁ。人生どうなるかわからないね。


 ソーウェル様とお付き合いするのはとてもとても恐れ多いとは思うけど、それよりも嬉しさの方が勝ってしまう。これからどうなるのか楽しみだなぁ。


 そんなことを思いながら、ベッドから起き上がり、椅子に座って五線譜を取り出し、ソーウェル様からもらったペンを走らせるのだった。

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